「動物好き」だからこそできる、きめ細かな配慮が好評の理由

━━南アルプスと伊那谷を見渡せる眺望が、とてもいいですね! 犬を飼っている知人からも、ここのお話はよく聞いています。

児島敏子さん(以下、児島) おかげさまで、オープン直後から多くの愛犬家さんたちが集ってくださって。みなさんに喜んでいただけて、うれしいです。

━━そもそも、この場所にドッグランを作るという計画は、いつからあったのでしょうか?

児島 数年前から、作りたいという思いはあったんです。というのも、少し前にこの地域で利用されていた、あるドッグランが閉店になってしまって。愛犬家のみなさんが困っている、という話を聞いていたのもあって「ならば、私たちがこの月夜平G.Gパーク(高森ドーム)に」と思っていたんです。

児島 いよいよと決断したのは、コロナの影響ですね。遠方から、グラウンドゴルフにいらっしゃるのがむずかしくなった状況を前に、「この、予備コースのスペースがもったいないな、みなさんに愛されるような何かに使えないかな」、と思いめぐらせて、ドッグランの構想を動かすことにしたんです。

━━このビジネスプランでみごと、昨年度の「飯田市起業家ビジネスプランコンペティション」で新しい事業に取り組む方を対象とした「一般起業部門」を受賞されました。

児島 今回のコンセプトは「まず地域のみなさまへ」。とにかく、この地域の人たちに喜んでもらえる施設を実現するために応募したんです。

でも、私自身も愛犬家ですから、なにより一番自分が楽しいし、うれしいんですけれどね(笑)。

━━犬や動物がもともと、お好きだったのですか?

児島 ええ、小さい頃から色んな動物を飼ってました。トンビからフクロウから……。

━━フクロウ!

児島 そうなんですよ。ミドリガメ、金魚、リス、それから小鳥は十姉妹、セキセイインコ、コザクラインコ……とにかくいろいろ飼いました。犬も、これまでに何頭も。旅行に行っても、自由時間になると動物園見つけて、一人で行っちゃうくらい。

━━本当に、大好きなんですね(笑)

児島 はい、だからこそ、できるんです。動物を飼う上で「健康に育てる」という事はとても大事。自由にリードなしで走ることができたら、ワンちゃんはうれしいし、体力づくりができて長寿にもつながると思うんです。

━━散歩だけじゃなくて、「走る」ことが大事なんですね。

児島 そう、からだも内臓も強くするには、活発なドッグ“ラン”が大事。さりとて、外で放つわけにはいきませんから、こうした場所が必要なんです。

犬と飼い主、両者が幸せになれる施設と運営を

━━こちらのドックランの特徴を教えてください。

児島 小型犬の共用スペース、中・大型犬の共用スペース、貸切にできるプライベートスベースの3種類を設けています。

今、傾向として多いのが、“犬見知り”をするワンちゃん。飼い主さんが家族のように大事に飼っていますから、人間との付き合いには慣れてるんです。けれど、ほかのワンちゃんと馴染めない子はやっぱりいて。そういう方のためには、プライベートスペースをご用意して、安心して自由に遊んでもらえるようにしています。

実は、うちの子も、そういうタイプ。だから、プライベートスペースの必要性がわかるんです。

広大な敷地でのびのび。飼い主用の日陰スペースも完備

━━敷地が広いからこそ、細かなニーズに合わせたスペースを設けられるんですね。裏手のグラウンドゴルフ場も木々があって気持ちが良さそうです。リードを付けて一緒に森の中を歩いたりもできますか?

児島 はい、もちろんです。今はコロナのことで、人の気持ちがどうしても閉塞的になってしまいますよね。そんなとき、森の中を歩いていただくだけでも開放的になれます。都会と違って思いっきり自然のなかで深呼吸してもらうのもいいですね。せっかく環境のいいこの場所に出会えたからこそ、ぜひ飼い主さんにも楽しんでいただきたいんです。

暑い時期は、スプリンクラーで水を撒いたり、タープで日陰を作ったり。バーベキューを合わせたプランも予定していて。犬も飼い主さんも過ごしやすい環境にしていきたいと思っています。

婚礼、温泉、グラウンドゴルフ…時代の流れに合わせ、変化し続けること

━━そもそも、児島さんの本業は、あくまでも旅館業。まず、このグラウンドゴルフ場の運営を担うことになったのは、どんな経緯があったのでしょうか?

児島 始めたのは、今から20年くらい前のことですね。ここ南信州エリアでは「マレットゴルフ」というスポーツが人気ですが、グラウンドゴルフは愛知県など中京圏で盛んなスポーツ。私たちのお客様は、中京圏の方が多いので、「宿泊とグラウンドゴルフを合わせたプランができないか」と、思いついたのがきっかけです。

周囲には、マレットゴルフ場はあってもグラウンドゴルフ場はないので、私たちが自ら運営を担い、平日は宿泊とグラウンドゴルフのセットプランを販売してきました。その代わり土日は、地元の方に開放するという形をとったんです。

屋内のグラウンドゴルフコース「高森ドーム」にも、さまざまな可能性が

児島 高森町につくったのは、ズバリ場所が見つからなかったから。グラウンドゴルフ場を作らせてもらえる場所を探していた当時、飯田市内ではなかなか見つからなかったんです。そこで、お隣の高森町さんにお聞きしてみたところ、「ちょうどいいスペースがあるからどうぞ使ってください」って言ってくださったのが、ここ。敷地内には「高森ドーム」の名をつけた屋内の屋根付きグラウンドもつくりましたので、雨降りでも安心して使っていただけるのが利点ですね。

━━それにしても、グラウンドゴルフと宿泊のセットは、他にはなかなかないサービスなのではないでしょうか。

児島 ありがとうございます。これも、いろいろ工夫の末に生まれたプランなんですよ。

元々はうちは、一般的な宿泊業が中心の旅館でした。しかし、昭和48年ごろに阿智村に昼神温泉郷ができたことで、宿泊客数がぐんと落ちてしまって。

そこでまず、考えた展開が「婚礼」をメインにしたお宿になること。というのも、ベビーブームの時期に生まれた子どもさんたちが、ちょうど結婚する年齢になっていたんですね。お料理婚礼に力を入れていたんです。

その時代にも終わりがきたタイミングで、次に着手したのが『温泉』。平成7年に、地下1300メートルの温泉を掘りましてね。

━━温泉を、一から掘られた。

児島 はい、「出るわけない」と言われたこともありましたが、私たちは事前に調査していただいていて、ちゃんと出ることがわかっていたので。おかげさまで良質のお湯を授かることができました。そこで新しく温泉棟を作り、宴会場も広くして、再び温泉を大きな魅力とした宿泊の方へシフトチェンジしていったんです。

━━常に時代のニーズをキャッチして、変化し続けていらっしゃるんですね。だからこそ、今につながっている。

児島 私たちのお宿も長くなりましたが、歴史に固執せず、大切なのは、柔軟に変わることですよね。生まれた利益は、きちんと次の展開への投資に使って、いつも新たな魅力を付与し続けることが大切だと思っています。

とはいえ、自分たちだけの力ではとてもとても。今回のビジネスプランコンペについては、高森町での事業展開にもかかわらわず、「飯田市に本籍を置くビジネス」ということで、ビジネスプランコンペで受賞させていただきました。こうした困ったときに力になっていただけるって、本当にありがたいです。

「飯田市起業家ビジネスプランコンペティション」入賞の楯を手に

絶景のなか、美食を楽しむ「グランピング」も準備中

━━児島さんのご子息であり、飯田市でBar「Reunion」オーナーである弘和さんは、このドッグランをさらに生かすべく、すぐ近くでグランピング※の営業を始める準備をしているとうかがいました。
※グランピング・・・glamorous(華やかな)とcamping(キャンプ)を合わせた造語。優雅なリゾート感覚で楽しめる、新しいタイプのアウトドアスタイルとして、日本でも広がりをみせている

児島弘和さん(以下、弘和) はい。これも、ドッグランよりもさらに前から構想があったんですが、ちょうど隣接する敷地も管理できることになって、今、準備を進めています。

ここは視界が開けているから景色が良くて、夜景や星空も楽しめるんです。眼下には天竜川が流れ、早朝には雲海が見られるかもしれません。

児島弘和さん。居酒屋「Reunion」や三宜亭の「天空のビアガーデン」等、市内で飲食店を経営している。

━━星空に川霧! それは、ここでグランピングをする大きなモチベーションになりそうです。

弘和 はい、だからまさに「天空のグランピング」。コンテナハウスやログハウス、ドームテントも導入予定です。

加えて力を入れているのが、「食」です。もともと私は、飲食店を経営していますので。

バーベキューに加えて、地域のジビエを生かしたコースなど、3コースご用意しようと今、最終調整をしているところです。今秋のオープンをめざしています。

━━これも三宜亭の、新たな変化につながりそうですね。

弘和 こういう時こそ、チャレンジすることが大事で、今、踏ん張らないでどうする?っていう気持ちが湧いてくるんですね。
グランピングだけじゃなく、この「高森ドーム」の施設を生かしたドローンの免許講習会や、e-スポーツのアトラクションなどなど。アイデアはたくさんあるので、一つずつかたちにしていけたらと思っています。

おもてなしの心を胸に。いつも前を向いて、挑戦を

━━2021年8月現在、三宜亭は温泉のみの営業で、宿泊はお休みされているということですが、今、飯田の宿泊業の現状はどのような状況でしょうか。

児島 もう、青息吐息というんでしょうか……観光客は皆無といっていいくらいの状況。近隣の観光地である駒ヶ根市ですら、同じような雰囲気だと聞いていますよ。

━━移動を控えるよう言われると、なかなか気持ちよく遠くへは出かけられません。そんな中、今回のドッグランのような、身の周りの楽しみを増やすようなチャレンジは、まず近隣地域からでも活気が戻ってくるきっかけになる気がします。

児島 そうですね、活気を取り戻したいですし、制限のあるなかでも楽しみを見つけていただくことが一番ですから。

━━コロナ禍でなかなか外出ができなくなってから、改めてこの地域の環境の良さに気づいている方も多い気がします。

児島 本当に。私も、県外からこの中央アルプスと南アルプスに挟まれた場所に戻ってくると、改めて素晴らしいところだなって感動するんです。ふもとには果樹園が広がっていて、時季になれば、桃、梨、りんごと、美味しい果物がたくさんとれて。こんなに豊かな所、そう多くないですよね。

━━まだまだ先行きが不透明な状況ですが、最後に三宜亭の今後への想いをお聞かせください。

児島 三宜亭は、創業から約150年ほどになります。改築や増築もしていますが、箱ものの古さというのはあると思います。

それでも、多くのお客様がここをめざしてリピーターとして訪ねてくださる。それはやはり、心からのおもてなしというサービスに重きを置いてきたからかと思います。

おいしい料理や温泉も、もちろん大事。けれど、やっぱり接客や人との繋がり、内面のサービスが大切なんですよね。

観光業はいま、コロナ後の世界に向けての「準備期間」。今、何をするかでこの先がうんと違ってくると思います。私たちだって、もちろん大変。でも、ここから先は上がっていくしかない。どこで切り替えていくか、前を向いて先手を打てるか。もう、それだけだと思っています。

━━ありがとうございました。


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