データに基づく効果的な社会的事業の実施と、それを叶える資金の循環をめざして

━━前回の取材から3年が経ちました。あれから宮國さんの活動はどのように展開していますか。

宮國康弘さん(以下、宮國):飯田市をはじめとする全国各地で、介護予防分野におけるSIBの導入を目指しているところです。その傍ら、国内におけるSIB手法の開発やSIBによる効果の研究、大学講師として予防医学、社会調査の方法などを講義しています。

━━宮國さんの事業・研究の核となるSIB、まだまだ知らない方も多いかと思います。どのようなものか教えていただけますか。

宮國:簡単に言うと”資金を循環させていこう”というもの。何らかの事業によって達成された社会的成果に対して、行政や自治体がサービス提供者や資金提供者に成果報酬を支払う仕組みです。


━━先ほどおっしゃっていた介護予防分野では、どのように生かされるのでしょう。

宮國:今年報告された研究では、地域活動に参加している高齢者では、そうではない高齢者と比べて、6年間の累積介護費が一人当たり約11万円低い傾向があることを、12自治体4.6万人の追跡調査により明らかになりました。これは要介護状態でいる期間が短縮されることで、介護費が縮小する可能性があるということです。高齢者に「地域活動」を促し参加する高齢者が増えると、将来の介護費の抑制ができると期待されます。

たとえば、地域活動を促すサービスを提供し、介護費用を削減するという目的で行政がSIBを導入したとします。資金提供者からの事業資金の提供をうけたNPO法人等が、地域活動を促したサービスを行い、第3者評価機関の評価をうけて、例えば、1000万円の介護費が削減された場合、その一部を資金提供者にリターンがあるという仕組みです。あくまで一例ですが、この資金循環の仕組みをSIBと呼んでいます。

また、SIBは、事業の成果に応じて、委託料の最終支払い額が決まる「成果連動型民間委託契約(PFS:Pay For Success)」の一種です。PFSの仕組みに、資金提供者から資金調達を行うスキームがSIBです。資金提供者からみるとリスクもあるため、必ずしも資金調達ありきの想定ではなく、行政と事業者で成果目標の達成度に応じて、成果連動支払いを選択する場合もあります。

図:ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)の概要(経済産業省資料より)

━━なるほど。なぜこういった仕組みが求められるのでしょうか?

宮國:国や地方公共団体は、社会課題に対し、成果目標を設定した上で、民間事業者に委託することとなるため、従来の委託方法とは異なり、より成果が期待できます。NPO法人などの民間事業者は、その想いやノウハウはあるけど資金難や人手不足もある。その一方で、社会課題解決のために資金を提供したい資金提供者も増えており、その受け皿となるクラウドファンディングや、コミュニティー財団の設立も全国各地で設立されています。

そのような、それぞれの立場で得意とする部分をつなげ、社会課題の解決を図っていく仕組みが、求められるようになってきています。

事業体の変化によって生まれた新たな可能性

━━現在、事業面ではどのような活動をされているのでしょうか?

宮國:2021年1月に一般社団法人「南信州基金」を設立しました。南信州の社会課題解決と価値創造を目指す資金循環団体。市民からの寄付を集めて、NPO法人等などの非営利団体に助成していく中間支援を目的としています。

━━I-Portのビジネス支援を受けられたときの法人は、「株式会社ネクサスラボ」でしたね。こちらとはまた別の事業体ということでしょうか。

宮國:そうです。現状として、ネクサスラボから南信州基金に動きを寄せているところです。理由は、この南信州基金という枠組のほうが、SIBの導入や資金循環の考えには相性が良いと感じたからです。

画像:南信州基金設立の案内と運営メンバー

━━ネクサスラボではできなかった働きかけが南信州基金ではできる、ということですか?



宮國:はい。当初は株式会社として、NPO法人と行政との中間支援ができればと考えていました。ただ、色々な人に意見をもらうなかで、それがこの地域では合わないのかもしれない、と感じ始めたんです。

ネクサスラボは企業である以上、自社の利益も考えなければなりません。でも、NPO法人などの非営利団体は”儲ける”という思考でやっていないので、中間に入ろうとしても「ビジネスでしょ?」という印象になっていました。全国にはもちろん中間支援組織としてうまく活動している企業もありますが、この地域でやっていくには少し違った形がいいかもしれないと感じていました。

そのため、SIBを含めた資金循環の仕組み構築には、非営利的な要素を絡めつつ、資金の受け皿をつくる形態に変えたほうがいいのではないかと考えが変わってきました。そこで設立したのが、南信州基金です。

━━実際に、取り巻く環境は変わりましたか?

宮國:変わりましたね。南信州基金は「みなきん」という愛称で読んでいて、これは「みんなのお金」という意味合いがあります。自然と公益性が高くなり、賛同して協力してくれる仲間も増えました。今では私のような研究者、保育や教育に携わる方、看護師さんや助産師さんなどの医療従事者、金融機関職員、行政職員などさまざまな他分野の方が入ってきてくれて、毎月勉強会をおこなっています。地域の課題、南信州の価値について「みんなで考えていこう」という雰囲気が高まってきたと感じています。

写真:外部講師によるオンラインみなきん勉強会の様子

事業評価のためのデータ構築を推進中

━━飯田市におけるSIBの導入については、現在どのように進んでいますか?

宮國:SIBを導入するために、まずは事業評価ができるようなデータの構築を、飯田市と協定を締結して進めています。

ただ、難しいところがあり、SIB導入について検討を進めたのは、I-portを管轄していた金融政策課でしたが、私が関心のある介護費用の抑制を検証するためのデータは、別の課が管轄であり、また社会参加を促すにしても、NPOや地域のまちづくり委員会へ理解を促したり、資金提供者もまだ事例が少ない状況で、リスクがある中では様子を伺っていることもある。社会参加を促すために高齢者の移動支援についても検討していましたが、地域交通等の移動のこととなると南信州広域連合の協力も必要です。多様な主体を巻き込んでいかないと実現ができません。

━━うーん、悩ましい……。

宮國:SIBを含めた成果連動型委託契約を少しでも前に進めるために、まずは、事業評価や地域課題の把握のために、飯田市で高齢者6000人の調査を2018年と2019年に実施することができました。この調査は、飯田市が策定する介護保険事業計画のための「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」として実施されたものです。大学等の研究機関と全国66市町村が共同で実施している「日本老年学的評価研究」に、飯田市の参加も実現して集められたデータです。SIB導入にむけた介護予防分野における事業評価のためのデータが得られたことになります。

図:飯田市も参加する日本老年学的評価研究の全国フィールド

━━このデータがどうなるんですか?

宮國:このデータは、調査時は要介護状態になってない高齢者から収集しているため、その調査に参加した高齢者が数年後、要介護状態になっているか、認知症になっているか、介護サービスの利用状況はどうかなどを検証することが可能となります。


つまり2018年・2019年に調査した高齢者が、現在どのような健康状態となっているのかを分析できるデータになります。今年が最初の調査から3年経過するので、追跡データの構築にもいい頃合いだと思います。

━━なるほど。さらにデータを集めるわけですね。

宮國:あとは、それらの評価のためのデータの活用として、行政のほうで「SIBやった方がいいよね」という方向になれば、次の展開へ進めます。介護費用の評価も可能となれば、行政もSIBのスキームを具体的に検討する可能性はあります。

━━すでにSIBを運用しているような自治体もあるんですか?

宮國:今年、愛知県豊田市では、20社以上の民間企業などが、介護予防プログラムを年間5千人の高齢者に対して提供し、2026年までに5年間で最大5億円と投入して事業を行います。その取り組みによって、要介護者発生のリスクを抑制し、介護費10億円の削減を目指して動き始めました。国としてもこうした取り組みを支援していて、先駆的な自治体は率先して進んできています。そこがどうなっていくか様子を見ている自治体もありますね。全国的に、ようやく走ろうとしているところだと思います。

━━動き出した自治体があるのは大きいですね。

宮國:そうですね。それが成功事例になれば様子を見ていた自治体も動き出し、国の支援もより強くなると思います。飯田市以外でも事例をつくっていき、介護予防分野におけるSIBを導入にむけた準備、特に事業評価のノウハウを蓄積しているところです。

━━今後、具体的に飯田市でいつまでにSIBを導入させたいと思っていますか?

宮國:今後飯田市で、締結されたSIB構築に向けた協定の見直しがされていくと思いますが、その段階のときに、これまで得られた飯田市の調査データの活用について、具体的な提案を行っていければと考えています。以前は、飯田市の調査データもなく、豊田市のような事例も少なかったですが、調査によって飯田市の課題も明らかになってきたので、導入にむけた機運が高まることを期待しています。

地域で暮らす人に、地域課題を解決する視点を

━━「I-Port」の支援を受けて、今につながっていることはありますか?

宮國:実は2018年・2019年の調査は、金融政策課から介護関連の部署を紹介していただいたことで、飯田市が66市町村の内のひとつとして調査が実現されたんです。金融政策課が間に入って他部署とご縁を持てたことは本当にありがたいです。


━━それは驚きました!


宮國:私がやろうとしていることは、行政の皆さんのご理解や協力がなければできません。ほかにも、調査後に報告会の場を用意してもらえたりなどもしました。こうしたI-Port認定後も続くサポートが、認定を受けて一番感謝している部分です。

━━当時「I-Port」の認定を受けた方とのつながりは今もあるんですか?

宮國:I-Portの認定を受けた方のなかには「みなきん」の勉強会に参加してくれている仲間もいますよ。そういった意味では人と人とのつながりもI-Portを通じて増えました。

━━今後の目標を教えてもらえないでしょうか?

宮國:行政に対して資金循環の一つの方法としてSIBへの理解を促していくことがひとつ。あとは地域の皆さんに「地域づくりのための資金循環の考え方」もまちづくり委員会の方々や、関係者の皆さんに提案していきたいと思っています。お金を回すということですね。

━━お金を回すとは?


宮國:最近でいえば、クラウドファンディングも手段のひとつだと思います。なんらかの地域資源を使ってお金を生み出し、その資金を循環させて地域の課題を解決させる。また、飯田市は各地区をふるさと納税で直接応援することができる「飯田市20地区応援隊」もやっていますね。各地区の課題等を解決するための資金を得る方法として、とてもいい資金循環の仕組みだと思います。

━━地域の皆さんに課題解決の視点を提案していくわけですね。

宮國:そうです。また、人材育成という視点で、これから大学でゼミ生を持つことになるのですが、学生にも「地域思考」を身につけてもらいたいと思っています。可能であれば飯田市でフィールドスタディーを企画し、学生と地域の交流などもしていきたい。いずれ地域で活躍してくれるような未来の人材を育てていけたら、と考えているところです。そのような交流からも地域課題解決の視点を共有していきたいと思います。

SIBはあくまで社会課題解決のための一つの方法に過ぎません。まずは、地域をみて、課題はどこにあって、何をすると解決に向かうことができるのか、そういったことを地域と一緒に考えていけると嬉しいですね。

━━ありがとうございました。


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