個室感ある空間で、女性にも男性にも、オーダーメイドのヘアケア提案を。

━━はじめてお店にうかがいましたが、新しくて気持ち良いだけでなく、落ち着いた内装でリラックスできそうですね。南島さんはオーナーとして、どのようなコンセプトでお店をデザインされたのでしょう。

南島慎里さん(以下、南島) 僕にとっては飯田市鼎にある「かみおもい」に次ぐ2店舗目となるのがここ「ヒトリシズカ」です。この店には「個室感」「オーダーメイド」「エイジングケア」という、3つのコンセプトを設定しました。これらを柱に、高級感、上質感を感じていただける美容室づくりを今もめざしているところです。

━━それぞれ、どのような内容なのでしょう。

南島 まず「個室感」は、まさにビジコンでいただいた賞金を活用して、全客席の間にパーテーションを設けました。完全な個室にこそしませんが、コロナ禍の影響もあり周囲を気にされるお客様が増えるなか、お一人の空間でリラックスしていただきたいという思いです。

次に「オーダーメイド」とは、お客様の年齢やライフスタイルに合わせたヘアケアのご提供をオーダーメイドで行うというもの。施術後の日常生活のなかでも、美しい髪型や髪そのものを維持していただけるように、ご提案します。

南島慎里さん(写真=佐々木健太)

南島 そして「エイジングケア」は、カットやパーマを行わないお客様にもご利用いただける「エイジングケアヘッドスパコース」などをご用意していますし、白髪を黒髪に戻していくような効果が期待されるトニックのご提案など、今後さらに充実させていきたいと考えているところです。

━━このようなコンセプトに至った背景には、どのような想いがあるのでしょう。

南島 まず、せっかくなら1店舗目の「かみおもい」とは違う路線で、という発想があって。あちらはオープンなつくりで明るい雰囲気の店なのですが、お客様のなかから「ゆっくりした雰囲気も味わいたい」というお声をいただくようになったことも、コンセプトの方向性に大きな影響がありました。

━━なるほど、これまでのお客様からの声も、お店づくりに反映されたんですね。メンズエステなど、男性客向けのメニューも充実しています。

南島 そうですね、今、6:4くらいの割合で男性のお客様にもご利用いただいています。個室感のある空間なので、周りを気にせずにご利用いただけるようです。

あとは男性のお客様の方がヘッドスパなどもリピートしやすい傾向を感じますね。

女性は、エステなどリラクゼーションの選択肢が広い傾向があると思いますが、男性はなかなか敷居が高いところもあるようで、髪を切るついでにヘッドスパが受けられる、というところに魅力を感じていただいているみたいです。

良い店とは、人が育ち、長く働ける店。

━━1店舗目の「かみおもい」は明るくオープンなイメージのお店、とのことでしたが、そもそも「かみおもい」というネーミングも印象的ですよね。

南島 そうですね。美容室というとどうしても髪型という「デザイン」に目が行きがちだと思うのですが、僕たちは素材である髪の状態を整えて、そこにデザインを乗せていくイメージを大切にしたいと考えています。そうすることで、お客様が思い描くスタイルをよりよく叶えられるのではと思うんです。名前のとおり、「髪を大切に」というコンセプトがサービスのすみずみに行き届いているのが「かみおもい」の特徴であり強みだと思っています。

オープン時に設定したのは、「髪を大切にする」「おしゃれな髪型をご提案する」「お客様が一生涯通っていただける美容室にする」そして、「スタッフが一生涯働ける店にする」という4つの柱。この想いに沿って、経営に取り組んできました。

━━もともと、ご両親ともに美容師をなさっていて、「かみおもい」はお父様から事業承継なさったとか。 

南島 はい。父はもともと「かぐや姫」という名前で美容室を営んでいました。

僕が名古屋のサロンで約12年経験を積んだあと、Uターンしたのをきっかけに、アイデアを出し合ってリニューアルオープンさせたのが「かみおもい」です。

オープンは2014年、ずっと父がオーナーを務めていましたが、去年の7月に、父から事業承継をするかたちで僕がオーナーになりました。

父・富雄さんが営んでいた美容室「Kaguya姫」の看板は現在ヒトリシズカの店内に

━━「スタッフが一生涯働ける店にする」ということも、最初から決めていらしたのでしょうか。

南島 はい。名古屋で美容師としてすごした約12年、さまざまな現場を経験しとても勉強になった反面、美容業界の過度な厳しさに「これでは後継が育たない」と強く感じた部分があって……。

━━たしかに、美容師さんは休みが少なかったり、営業後に研修を行ったりと、厳しい現場というイメージがありますね。

南島 そうなんです、低賃金、長時間労働なうえ、先輩も怖かったり(笑)。そうなると、どうしてもみんな続かないんですよ。美容学校の時の友達も、気づけばもう8割9割は辞めてしまっているんです。そういう経験を重ねたうえで、やっぱりお店を持つなら人を残すことができる会社が伸びていく会社なのかなって思ったんですよね。

今は僕も結婚して子どもがいますが、たとえばもしも自分の娘が美容師の道を選んだとき、休みもなくて、先輩に理不尽に叱られて心を病んで辞めていくような業界だったら、嫌じゃないですか。

ただし、その理想の労働環境を実現するためには、何店舗か持たせてもらって人材を育成しながら経営していきたいなと思うようになっていって。ヒトリシズカをオープンさせたいと思ったのは、そんな理由もあります。

それでも、2店舗目の店長は最初僕がやらなくちゃいけないかな……と思っていたところ、縁あって熊谷くんに来てもらえたのはとてもラッキーでした。

美容の地域差が狭まる時代だからこそ、安さより納得感を提供したい

━━熊谷さんとはどのように出会われたのですか?

南島 お互い、美容師として存在は知っていたものの、きちんと話したことはなくて。彼が飯田に戻ってきた絶妙なタイミングで出会ったんですよ。

熊谷健太郎さん(以下、熊谷) 2019年の年末、僕が愛知で9年間美容師をしたあと、ニューヨークでの短期修行を終えて帰ってきたタイミングだったんです。

正直、そのときは飯田で働くとは考えていなくて、「どこかで独立しようかな」とも思っていて。そんなとき、オーナーと知り合って、2店舗目の計画とコンセプトを聞いて、「やってみたい」と思ったんです。

━━地元は飯田ながら、飯田で美容師として働くのは初めてだったということですよね。最初の印象はいかがでしたか?

熊谷 最初の1年弱くらいは、まだオープン前だったので「かみおもい」の方で仕事していたんですが、若い方からご年配の方まで予想以上に年齢層も幅広かったので驚きました。自分が得意とするデザインカラーも、飯田ではあまりやる機会はないかな、と思っていたのに全然そんなこともなく、名古屋とそれほど変わらないな、というのが正直な感想でした。

そう感じたとき、うちの会社の未来に向けた可能性っていうのをすごく感じたんですよね。この店は料金設定も少し高く設定して、その分サービスやお客様へのご提案を充実させていく方向で。それが自分にとってやりがいであり挑戦を感じられて、とてもいい経験になっています。

━━高価格帯のお店づくりも、南島さんの当初からの構想ですよね。

南島 はい。これも、2つの思いがあって。まず、「かみおもい」のカジュアルさとは異なる価値を求めるお客様がターゲット層になればというところ。

加えて、先ほどお話した「一生涯働けるお店づくり」として、きちんと努力に見合う対価を支払える料金体系にしたいと考えました。

じつは僕、名古屋で安売り的なお店も経験したことがあるんですが、もう忙しいばかりで。肉体的にも大変な思いをして、お客様に満足いただいているかというと、決してそうじゃないんですよね。「安いから」と選ばれることよりも、良いサービスに納得して通っていただくほうが、お客様と息の長いお付き合いができるということも、その時身を持って知ったんです。

コロナの影響もあり、すべて予定通りには進んでいない部分もありますが、理想の状態に近づけるよう、日々みんなでがんばっています。

若者が戻ってこられる、働ける美容業界を飯田に

━━では、今後のお店づくりの目標を教えてください。

南島 今、構想しているのは……実は、「ヒトリシズカ」をオープンして間もないですが、ここを増築しようと考えているんです。

━━すごい、それはどのようなスペースになるのでしょう。

南島 ここでネイル、まつげエクステ、エステなどをやりたいという意欲がある子が出てきているので、そういうスタッフのための場が提供できたらなと、動いているところです。

━━まさに、働く人の意欲を伸ばす経営を実践されていますね。

南島 いえいえ、今どんどん自分の仕事を店長に任せられるようになっているぶん、僕がしなくちゃいけないことがある、その勉強をしていかなければと思っていて。

2店舗の経営者としてまだ1年目。美容師で言ったらアシスタントぐらいの立場じゃないですか。まだまだこれから勉強しなきゃいけないことはたくさんあるけれど、とにかく大切なのは人。どんどん任せて、みんなに主体的に関わってもらうことかなという感じはしていますね。

━━将来は地元で美容に関心のある子達、若手を育成できるような場を作りたいという思いのなかで、店舗も必要に応じて増やして行けたら、ということですね。

南島 まさしくそういうところです。30歳をすぎて、今僕たちができることって育成だと思うから。でもそれは、ゴリゴリ無理をさせるという意味とはまったく逆で。僕たちのアシスタント時代は朝早く来て夜遅くまで練習するっていう時代だったけれど、なんかもう違うのかなって思って、週休二日制も導入しました。

━━なんと、すでに週休二日制なんですね。

南島 そうですね。月曜日と火曜日は休み、金曜日の午後は予約をお受けせず、スタッフの練習時間にあてています。

━━では今は、お客様にゆったりとした時間の満足度を感じていただきながら、内側のスタッフをしっかり育てていく時期だと。

南島 そうですね、スタイリストになるためのカリキュラムづくりなども、急ピッチで取り組んでいるところです。

━━そういう取り組みが広がると、飯田で美容師を志す若者が「名古屋じゃなく、飯田で働こうかな」と戻ってくる流れにもつながりそうですね。

南島 まさに、そういうことも意識しての店舗展開です。まだ、なんの形もない夢ですけど、最終的には「飯田に美容学校つくりたいよね!」って、熊谷くんとも話しているんです。目の前を見れば、まだまだコロナの影響で厳しい状況ですが、夢は大きく、志は高く。

地元だけじゃなくてもいい、美容に関心のある若者がめざしてくれるようなにぎわいのある街にしていくためにも、一つずつ積み上げていけたらと思っています。

━━ありがとうございました。


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