こんにちは。 ふくしま新聞店の“ふくたつ”こと福島達也です。
突然ですが、皆さんはいま、どんなデバイスでこの記事を読まれていますか。おそらく、スマートフォン(スマホ)で見ている、という方がほとんどではないでしょうか。もちろん、読んでくださりありがたいことなのですが、「控えたいと思っていても、ふと気がつくとスマホばかり触っている・・・」そんなふうに感じている方も、多いのではと思います。
スマホがあればいつでもどこでも膨大な情報にアクセスできます。便利な反面、その情報に追われて、私たちの頭や体は休まることがありません。近ごろは「スマホ認知症」や「スマホ脳」という言葉があるように、デジタル依存の現代人に警鐘を鳴らす研究者もいます。
たしかにデジタルテクノロジーの進化は日進月歩です。けれど、私たち人間の脳の構造は太古より変わっておらず、処理できる情報量には限界があるのです。いかにITの世界にいるビジネスパーソンでも、AIなど急速に変化する時代への対応に疲れてしまっている一面もあるでしょう。
そこで私が提案したいのが、私たちが情報と上手にバランスよく付き合っていくために、新聞を活用することです。新聞はSMSなどwebメディアに比べると「オールド・メディア」と呼ばれて揶揄されることもありますが、オールドとは言い換えれば、伝統と歴史があること。現代の新聞のスタイルである日刊紙は17世紀にヨーロッパで生まれ、以降今まで、新聞は長い時間、人間の生活と共にあります。
さらに歴史をさかのぼれば、石や木、竹などに文字を刻み、人類が情報を伝える「媒体」として活用した事実もあります。このような活動もある意味においては「新聞的」であると言えるのではないでしょうか。
自然に身を置き、五感で新聞を感じる
私はNHKの『おとな時間研究所』という番組が好きです。「タニアさんの田舎暮らし」という回では、東京在住だった料理研究家の門倉多仁亜さんこと「タニアさん」が、鹿児島県鹿屋市という自然豊かな環境に移住した生活が紹介されていました。その番組内でタニアさんは「私の楽しみはお気に入りのテラスでゆっくりと新聞を広げること」と言われていました。タニアさんはコーヒーを飲みながら、地元紙や英字新聞を1時間かけてじっくりと読みます。テラスにはお花が咲き、鳥の鳴き声が聞こえるなか、そよ風に吹かれ、季節を肌で感じながら新聞を読む。とても素敵なライフスタイルだと思います。

ここに私たちが生活の中の癒しの時間として、新聞を読むことを取り入れるヒントがあるように思います。例えば、休日に新聞を持って近所の公園に出かけてみませんか。南信州には自然豊かな公園が多くあります。公園のベンチに座り、自然光の中で新聞を読む。スマホのブルーライトは目を疲れさせますが、自然光は目に優しいですし、日光浴にもなります。新聞を読むのにちょっと疲れたら、花壇の花をみて癒される、遠くにある美しい山を見て、目の疲労を回復させるのも良いですね。
早朝の時間帯だったら、新聞紙にインクの香りが残っているので、ちょっと嗅いでみましょう。新聞のインクは植物由来の成分で出来ています。もし誤って、口に入ってしまっても害はありません。
新聞の切り抜きで、情報を身の丈サイズに収める
インターネットの良さは、いつでもどこでもすぐに情報にアクセスできること。そして、その情報量は無限大と言えるほどです。それゆえに、膨大な情報の海に溺れてしまってはいないでしょうか。その点、日刊紙の新聞の良さは「情報が有限なところ」。それはデメリットに見えますが、視点を変えれば、「この情報だけ読めば良い」と言うのは、実はコスパが良く、最近は若者にもその価値が見直されているようです。紙の新聞を読むと記憶が定着するという説もあるようです。
デジタルデトックスのために、さらに私がおすすめしたいのは「興味のある新聞を切り抜いてスクラップをつくること」。スクラップする行為により、ただ受動的に情報を得るのではなく、自ら主体的に情報を選び取る流れを実体験できます。新聞記事の切り抜きは手先を使うので、脳に刺激を与えて活発化させる効果もあります。
新聞の文章をノートに書き写すこともおすすめです。とくに一面下のコラムは、信濃毎日新聞は「斜面」、中日新聞は「中日春秋」、朝日新聞は「天声人語」など、新聞各社の第一級の書き手が腕によりをかけて執筆しています。上記の新聞社では、専用の書き取り帳も用意しているので、コラムの書き取りをする方も多いですね。書き取りによって、文章を書く練習になりますし、漢字を覚えることができます。高齢の方にとっては認知症予防にもなるようです。

「そこまでの時間がない」という方は、新聞を読んでいて心に響いた言葉をノートに書き留めていくのでも良いのでないでしょうか。私のおすすめは、朝日新聞の一面に掲載されている哲学者の鷲田清一さんの「折々のことば」というコラムで紹介されている言葉を書き写すこと。鷲田さんがセレクトした古今東西の言葉や格言は、短いセンテンスですが、味わい深く考えさせられる言葉が多いのが魅力です。
「折々のことば」をゆっくり丁寧にノートに書き写すことで、「写経」をするように心が落ち着き、一種のマインドフルネス的な効果が得られます。とても短い文章なので、集中して取り組みやすく、習慣化しやすいというメリットもあります。ぜひお試しください。
たまには電源をオフにして、情報との距離感を見直すひとときを
さまざまな提案をしてきましたが、何か一つでも気になるものがあったでしょうか。
現代社会で生活する上ではスマホは必須で、もはや手放すことはできません。それが行き過ぎると一種の“強迫観念”が生じないでしょうか。
ここで、中国古典の「荘子」からひとつ、寓話をご紹介します。。
「昔、ある人が自分の影が嫌で、そこから離れようとしました。ところがどんなに早く走っても影は離れません。この人はまだ走り方が遅いのだと考えて、もっと速く、もっと速く!と走り続けましたが、ついには力が尽きて死んでしまいました。木陰に入れば、自然と影は消えるのに、休むことを知らなかったのです。」
私は、デジタルの時代だからこそ日刊紙としての新聞をもっと“スロー”に位置付けて良いのではないかと考えます。上記の荘子の寓話で言うところの“木陰”のイメージです。
たまにはスマホの電源をオフにして、じっくり新聞を読むことに向き合ってみる。
それが、自分と情報との距離感を見直すきっかけになると良いですね。