「数字を見ただけで気が滅入ってしまいます」
起業相談に来られた方に限らず、現役の経営者でも苦手意識をもってしまうのが財務計画です。かくいう私も高校時代は数学が大の苦手で、100点満点中10点をとったこともあり、数字にはかなり苦労させられました( ノД`)
でも大丈夫!起業や経営に関する数字は中学校や高校の数学より難しくありません。
むしろ一度仲良くなれば、これほど頼りになるパートナーはいませんよ!
起業のときのポイントは3つだけ
起業の財務計画を説明するとき、ポイントとなるのは次の3点だけです。
①事業を始めるために何が必要でいくらかかるのか
②どんな人にどんな商品をどれくらい売る予定か
③どんな費用が継続的に発生する予定か
「言われてみれば、たしかに事前に考えておかないと!」と思う内容ですよね?
これを「資金使途」とか「収支計画書」とか「損益分岐点売上高」と言うと、難しい印象を与えてしまい、嫌気がさし、思考まで停止してしまうかと思います。まずは堅苦しい言葉に惑わされず、理解しやすい言葉に変換して向き合ってみましょう。
さあ次は①~③の考え方について一つ一つ見ていきましょう
①事業を始めるために何が必要でいくらかかるのか
これは「開業費」のことですね。深く考えずにまず開業に必要なモノをどんどん書き出し、その横に金額を書いていけば、大まかな開業費はおのずと見えてきます。この時、譲ってもらえるモノや貸してもらえるモノがあれば一緒に書き出しておきましょう。
②どんな人にどんな商品をどれくらい売る予定か
これは「売上計画」のこと。前回のコラム(商品・サービスについて深く考えてみよう)で取り上げた内容です。最初は理想の状態でよいので、一日(月)に何人くらいのお客さんが来て、何円くらいの商品・サービスを、何個(セット)くらい買ってくれるのかをイメージして書き出せば、どのくらいの売上規模になるのか様子が見えてきます。売上高=客数×購入価格で計算してみましょう。
③どんな費用が継続的に発生する予定か(費用について)
これは「費用計画」のこと。事業をするにあたり継続的に発生する費用です。材料費、家賃、水道光熱費、スタッフのお給料など、思いついた費用を日(月)単位で書き出してみましょう。
ちなみに②売上-③費用=利益ですので、最後はその利益で①の開業費を何年くらいで回収できるか考えることになります。
大切なのは「とりあえず書き出してみること」です。
書き出してみれば「この販売数じゃ〇〇円の赤字になっちゃうな」とか「やっぱりA商品よりB商品の方が〇〇円も儲かるのだな」とか「お金が〇〇円くらい足りないぞ」とか、「〇〇円」と具体的にイメージできるようになります。これは頭の中で思いを巡らせても出てくるものではありません。
数学のテストではないので、間違っていたら再度電卓をたたけばいいのです。実際にお金を動かす前であれば損はしません。それに中学や高校で習ったルートや三角関数も一切不要で、使っているのは+-×÷だけです。
大切なのは優先順位
数字が具体的にイメージできるようになると、新しい壁にぶつかります
「開業費だって無限にあるわけではない」
「売上だって最初から対応できるもの、できないものがある」
「費用だって理想と現実のギャップが生じるはず」
そうなると次のステップとしては「優先順位」をつけて判断することになります。
この優先順位を誤ると、成功するものも成功しません。
優先順位を考えるときに大切なこと。それは原点に立ち返ることです。
「なんのために起業しようと思ったのか」
「どんなお客さんにどんな商品・サービスを提供したいのか」
いま使おうとしているお金は、原点に立ち返ってみて必要なお金でしょうか?
どちらか選ばなければならない場合、原点に立ち返ってみてどちらがより必要でしょうか?
事業が始まると日々この判断の繰り返しです。最初は同じ100万円だったとしても、経営者によってその使い方は大きく異なります。経営理念や経営目的が大切と言われている理由の一つが、忙しい毎日の中で、この判断を行う時の「ものさし」の役割を果たすからです。スティーブ・ジョブズも「やらないことを決める。それが経営だ」と言っていたそうです。
……どう使うかは、どう生きるか。経営だけでなく、日常生活においても同じことがいえるかもしれませんね。あまり言われませんが、新規事業を行う場合はあらかじめ自分自身の財務体力、すなわち支払い能力などを基準に「撤退ライン」を決めておくことも大切なことです。
今回のコラムは「いかにして財務計画への苦手意識を克服するか」を重視して書いてみましたが、いかがでしたでしょうか?
ちょっと変なことを言いますが、起業にしても新規事業にしても、財務計画が見えてくると、夢物語だった事業がいまにも動き出しそうな、血の通った生き物のように感じられる瞬間があります。私はその瞬間が結構好きで、相談に来られた方の顔を見ても「あ、本当に私は起業するのだな」というスイッチが入る様子がわかります。
癖があって取っ付きにくい財務計画ですが、つきあってみると、冷静だけれども温かみのある大切なパートナーになってくれます。苦手意識をのりこえて、ぜひ上手につきあってみてください。
さて次回は自分の中では最終回。「いかにして行動するか」です。お楽しみに!