電気の「不純物」を取り除くから、電気の「浄水器」

━━本日お聞きする話題は「電磁環境」について、そして今回リリースされた商品が「電源浄水器」。あまりにも耳慣れない分野なので、まずご説明をお願いできますでしょうか。

五味勇喜さん(以下五味) 電化製品や携帯電話などを使用する=電気を流すと、その周囲には電界と磁界が組み合わさった「電磁界」が生じます。電界と磁界は影響しあい、交互に発生して波のように遠くへ伝わっていきます。これが「電磁波」と呼ばれるものです。

━━すでにちょっと難しいですが……(笑)

五味 ですよね(笑)、ともかくそういうものが発生している、ということをまずなんとなく飲み込んでいただいて。こうした電磁波が発生するなかで、今回の私たちの製品が解決する「電磁ノイズ」という問題があるんです。

━━電磁ノイズ、ですね。

五味 はい。私たちが日常のなかで家庭用コンセントから電源を取り、さまざまな電気製品を使っているとき、じつはエネルギー源となる電気だけではなく、雑さまざまな「余分なもの」をコンセントから引き込んでしまっているんです。また、使っている電気製品もまた、「余分なもの」を電線に送り込んでいる可能性があります。

━━なるほど……。

五味 もちろん、すべての電子機器にはノイズフィルターがついていて、機械から発生する電磁ノイズはこれくらいに抑えなさい、という世界的な規定があるんですが、それでも除去しきれないノイズは残っていて。これが、オーディオのパフォーマンスを下げたり、他の機械に誤作動を起こしたり、といった問題を引き起こす原因になり得るものなんです。

そんな課題を受け、今回リリースした「電源浄水器」は、一般的な電源ライン用フィルターでは取り除けないノイズを減衰させることを目的としている機器です。コンセントからこの機械を通してオーディオ機器へと電気を引き込むことで、オーディオが持つパフォーマンスを存分に引き出して、クリアで良質な音を楽しみませんか、というのが、この機器の狙いです。

株式会社電磁環境研究所の新商品「電源浄水器」(写真=佐々木健太)

━━余分な「ノイズ」を取り除くことで、電化製品のパフォーマンスを上げる、と。

五味 はい。これ、水でたとえるのが一番わかりやすいかなと思っていまして。浄水器を使っておいしい水を飲むのと同じように、この機械を通し、ノイズのないオーディオ本来の力を発揮した音を楽しんでいただきたい、との思いから「電源浄水器」と名付けました。

━━水を浄水するように、電気に含まれた“不純物”を取り除いて美しく……その例えをお聞きすると、急に身近に感じてきました! これは、オーディオにこだわりのある方達にとって、欠かせないものになりそうですね。

五味 ありがとうございます。まさに、数百万円というオーディオ機器を使っていても、電磁ノイズを取り込んでしまっていたらせっかくのパフォーマンスを引き出せない、と困っている方々がいるというお話をうかがったのが、本品開発の大きなきっかけなんです。

なにせBtoC商品の開発がはじめてで、まだ販路に悩んでいるところですが、先日松本のあるオーディオショップに飛び込みでお願いして1ヶ月以上にわたり、お試しということで置かせていただいたところ、確実に効果はあるよと。

━━違うね、という反応で?

五味 はい。大手オーディオメーカーの技術者さんにも聴いていただき、ご好評の声をいただけたので、かなり自信につながりました。

I-Portのビジネス支援が、事業計画を練り上げる契機に

──2019年6月に創業されて、企業向けの機器開発等をされてきて、BtoC商品は今回がはじめてとのことですね。今、このタイミングでこのような商品を発表しようというのはどういった思いからなのでしょうか。

五味 私自身は、以前は個人で電磁環境に関する機器の製造を主に手がけて収入を得ていました。けれど弊社は基本的に、電磁環境に関する開発設計を主に行なう会社として創業しています。そのため、本懐である「研究」を続けるために、売り上げとしても成果としても、一つ旗印のようなものをまず、出した方がよいのではないか、I-Portのビジネス支援を受けるにあたってアドバイスいただいたんです。

──なんと、I-Portのビジネス支援認定を受けるなかで、この商品が形になっていったんですか。

五味 はい。私たちの仕事のほとんどを占める「研究開発」は、先行投資がかかるうえにそれを回収できるのは1年2年、ともするともっと先になってしまうことさえあるんです。実を結び出したらあっという間に回収できるようになる一方で、その実を結ぶタイミングがいつになるのかわかりづらい。

そんな私たちの事業内容をI-Portのご担当者さんにお話したところ、「ビジネス支援を受けるなら、やはり事業構想のなかに優先順位をつけて、融資を受けた場合の回収の見込みなどを提示していく必要がありますよね」というご意見をいただいて。ならば「今ある技術でできること」で一つ、収入につながる商品を優先的にかたちにしよう、と……。

「計画は計画なので、ズレてもいいから走り方を描いてみよう」、とおっしゃっていただいたことで、会社としての方向性がだいぶ見えてきました。そういう意味でも、I-Portのビジネス支援を受けられたことは本当に良かったと思っています。

設備もサポートも、横連携も充実。起業して実感する、ものづくりのまち・飯田の頼もしさ

━━I-Port以外にも、飯田市ならではの支援体制をいろいろと活用されているとか。

五味 そうです、今拠点としているここ「飯田市環境技術開発センター」も、市のインキュベーション施設で、驚くほど安価に利用できています。今はこの広い敷地で利用者が私たちだけなので、この記事をきっかけに別の部屋を利用する仲間が来てくれたらうれしいなあ(笑)。そしてそもそも、最初は近隣の自治体を拠点にしていたのですが、2019年に開所した飯田市の「S-BIRD )」に、自分たちが研究で使いたい機材が充実していたので飯田へ移ってきたかった、という経緯もあります。

電磁環境研究所が研究拠点としているインキュベーション施設「飯田市環境技術開発センター」。開発支援室は5部屋あり、現在4部屋の入居者を募集している。詳しくは市HPへ

━━S-BIRDの設備も活用して、研究をされているんですね。

五味 はい。さらに、私たちの研究結果をかたちにしてくださるものづくり企業さんと地域で連携できないかと考えていたら、飯田には「NESUC-IIDA(ネスク飯田)」という共同受注グループがあることを知って、加入しました。ここにいらっしゃるオーガナイザーのみなさんが、地元の製造業各社の得意分野を熟知しているうえ、ご自身たちも大企業で重職を務めたものづくりの専門家でもあって。「ネスクツール」という、メールを使ったマッチングの仕組みのなかで、製品づくりにご協力いただけそうな企業さんを早速、募集していただけたんです。

「ものづくりのまち・飯田」として、市をあげてさまざまなかたちで支援が充実しているし、実際に周りを見れば素晴らしい技術をもった製造業の会社さんがたくさんある。これほど恵まれた環境はなかなかないのではないでしょうか。

料理人から転身し、十余年。「私たちだからできる研究開発を続けていけたら」

━━新製品も発表し、ビジネス支援も決定して。今後はどのように事業を展開されていくご予定でしょう。

五味 まずはこの「電源浄水器」を多くの方に知っていただくべく、開発だけでなく営業活動にも力を入れていきたいと考えています。つい先日まで新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点からなかなか人に会いにいくことも難しかったのですが、なんとか動けるときに営業に行き、今より少しでも広げていけたらと思います。

━━ご自身としても、個人からチームへと働き方が変わった一年だったかと思いますが。

五味 そうですね。まあ、以前は料理人だったので、仲間と動くという働き方には慣れてはいるのですが……。

━━なんと、ずっと理系畑だったわけではないんですね! 最後に思いがけない事実を知ってしまいました。

五味 東京のフレンチレストランで、シェフをしていたんです。でも、いろいろと壁につきあたって悩んでいたときに、今の技術の基礎を教えてくださった方に出会って。「悩んでいるなら、やる気さえあればある程度手助けはするから、やってみない」と声をかけていただき、転身を決めたんです。

(写真=佐々木健太)

━━それで、今につながると。

五味 はい。人生って不思議なものですよね。本当に大きな転換でしたが、何事も、人がせっかくくださろうとしているチャンスを「できません」というのは好きじゃないから、頑張ってこられたというのもあるかもしれません。それに、フレンチの世界では働くことの厳しさも教わりましたし、培ってきた飾り切りなど細かな手作業は、今の研究やちょっとした製造に役立っていると思います。なにより、ものづくりという意味では変わりありませんから。

━━最後に意外な来歴をお聞きしました。

五味 それから十数年がたち、いまこうして法人化をしたので、これからは地域のものづくり企業のみなさんとも連携して、もう製造やブランドはそうした方達にもっていただいてもいいくらいなんです。私たちは、私たちだからできる研究開発を、これからも続けていけたらと思います。

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