
空き家や空き部屋の利活用、複数拠点居住、都市と地域をつなぐ関係人口の創出──そんな未来志向の地域施策が、自治体と民間企業の連携によって全国で広がりを見せています。
2025年、長野県飯田市は「シェアリングシティ大賞 特別賞」を受賞。Airbnbとの提携やシェアリングシティ推進協議会への加盟など、先進的な取り組みで注目を集めています。今回は、こうした施策の一翼を担う飯田市の担当者・湯澤氏に、背景や今後の展望について伺いました。
農家民泊の文化を絶やさないために
━━シェアリングシティ大賞 特別賞受賞おめでとうございます。ここに至った経緯と、Airbnb社との提携事業のきっかけについて教えてください。
湯澤氏:そもそもは昨年まで在籍していた結いターン移住定住推進課で関係人口の促進という観点から地域の宿泊事業者の方々とお話しする機会があったのが、提携事業までに至る最初のきっかけです。
飯田市では、1998年から約20年間にわたって農家民泊事業に先駆的に取り組んできました。。高齢化や担い手不足といった課題を抱えながらも、中学生との交流を励みに、年間およそ1万人の修学旅行生を全国から受け入れてきました。
しかし、コロナ禍によってその流れが途切れる懸念がありました。やりがいを失い、継続を諦める農家も出るのではないかと心配されました。
そこで、地域の農家さんたちと取り組んだのが「この文化を残していくために、それぞれAirbnbに登録して個々に受け入れられるようにしよう」という試み。ヒアリングを重ねる中で、農家民泊の持続可能性、空き家活用、そして関係人口の創出など、複合的な地域課題が浮かび上がってきました。今回の提携は、それらの課題に対する一つの解決策として実現したものです。

シェアリングエコノミーとの出会いと広がり
━━農家民泊にイノベーションを起こすべく、Airbnbの登録に地域ぐるみで取り組んだのですね。地域のまとまりと先進性に驚かされます。では、シェアリングシティ推進協議会に加盟されたきっかけは何ですか?
湯澤氏:ちょうど民泊事業を立ち上げたい起業家の皆さんのニーズをお聞きして、ビジネスプランを練り上げていく「エアビースクール」という取組みを立ち上げようと準備していた頃に、シェアリングエコノミー協会の事務局の方から「協議会へ加盟しませんか?」とお声がけいただいたんです。
Airbnbさんがすでに協会に加盟していたこともあり、シェアリングシティ大賞への応募もスムーズに話が進みました。当時は加盟自治体が150弱ほどでしたが、今では200以上に増えているようです。
特別賞受賞につながった「エアビースクール」とは?
━━今回の特別賞受賞はどのような内容で応募されたのでしょうか?
湯澤氏:「ノウハウのシェアに基づく地域人材育成と地域DAO活用による関係人口創出」というテーマで応募しました。
旅のスタイルが“あの人に会いに行く”“地域の暮らしを体験する”という方向にシフトする中、サステナブル・ツーリズムやレスポンシブル・ツーリズムを目指す『いいだツーリズムビジョン』を、官民連携の形で策定したんです。その一環として、空き家を活用して宿業を始めたい人向けの短期集中講座「エアビースクール」を開講しました。実践者や専門家、Airbnbの担当者を講師に招き、参加者は具体的なビジネスプランを練り上げていきます。他自治体の職員も参加しており、モデルケースとしての広がりを見せています。
実践で広がるAirbnbとの連携
━━実際にAirbnbとの連携では、どのような成果がありましたか?
湯澤氏:2021年度に「関係人口の創出と空き家活用、農家民泊の推進」をテーマに、Airbnbと協定を結んでZ世代と一緒にワークショップを開催したり、空き家のDIYイベント等を開催してきました。また、デジタル化をまだ導入していない農家民泊をされている農家さんに、Airbnbへの登録方法や写真の撮り方、チャット対応のノウハウなどをレクチャーする研修会を実施しました。
中には研修中にその場でアカウント登録まで終えた参加者もいて、行政と民間が連携することで、スピーディかつ実行力のある仕組みづくりができると実感しました。

「年度をまたぐ支援」こそ、民間連携の強み
━━民間との連携によって見えてきた新しい可能性はありますか?
湯澤氏:行政の施策は原則として年度単位で完結するのですが、民間と組むことで、年度をまたいで支援できる体制が整います。つまり研修会で終わらず、実装や事業化まで伴走できるんです。そうした意味で、シェアリングエコノミーは自治体にとって「持続可能性」を手に入れる手段だと考えています。
シェアリングエコノミーの未来
━━「シェアサミット」や「シェアリングシティフォーラム」などにも参加されていますね。その意義と今後の展望について、最後にお聞かせください。
湯澤氏:昨年はオンラインで開催された「シェアサミット」に佐藤市長が参加し、国交省やシェア事業者の皆さんと意見交換を行いました。空き部屋の利活用や第二住民票、複数拠点生活に対応した制度など、いまのライフスタイルに合った法制度はまだ追いついていません。そのあたりを議論できたのは非常に有意義でした。また、フォーラムでは、防災や交通をテーマにしたセッションが多数開催され、全国から首長や自治体職員、民間事業者が集まりました。会場のMIDORI.so NAGATACHOも、若い世代の議員や起業家が集う興味深い場所で、政治サイドとの橋渡しの場にもなっています。
━━ありがとうございました!
制度を超えた人と地域の可能性
制度や仕組みだけでは解決できない地域課題に対し、飯田市の取り組みは「人」と「仕組み」の両輪をうまく動かす好例と言えるでしょう。関係人口や複数拠点居住といった未来のライフスタイルを見据えた政策が、こうした自治体から少しずつ全国に広がり始めています。
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