料理人としての原点をつくった、大阪での修業時代

━━「お好み焼4resT」という店名の由来を教えてください。

宮澤知未さん(以下、宮澤) 「お好み焼 4resT(ふぉれすと)」という店名の「4」には、「友人」「恋人」「仕事仲間」「家族」、そんな身近な4種類の人たちに、気軽に利用してもらえる店でありたいという思いを込めました。それから「4」は自分の誕生日にも入っている数字なので、私のラッキーナンバーでもあるんです。

 また、「フォレスト」という音には、休息(rest)や森(forest)といったイメージも重ねました。

 最後の「T」を大文字にしているのは、自分の名前の頭文字でもある「T」を、そっと忍ばせたかったから。自分のアイデアや経験を詰め込んだ、私の分身のようなこの店で、お客さまに“ほっと一息”ついていただけたらうれしいですね。

飯田市中央駐車場から徒歩約1分の好立地に店がある

━━宮澤さんご自身のご出身とご経歴を教えてください。

宮澤 出身は飯田市です。調理師を目指そうと決めた時から、進学先は大阪の辻調理師専門学校(以下、辻調)一択! というくらい絞り込んで考えていました。というのも、当時テレビCMでよく目にしていて、「料理の学校といえば辻調」というイメージが強くあったから。どうせ行くなら、本場で、名前の通った学校で学びたい。そんな憧れがありました。

━━飯田と大阪はかなり遠いですよね。大阪に行くことに抵抗やご不安はありませんでしたか?

宮澤 高校3年生のときには、大阪のお好み焼店「千房」でバイトすることがすでに決まっていたこともあり、それほど抵抗はなかったですね。

━━なるほど! 覚悟が決まっていらっしゃったんですね。では、辻調理師専門学校と、お好み焼店「千房」ではどんなことを学ばれましたか?

宮澤 辻調では、最初の1年間で和食・中華・イタリアン・フランス料理など、各ジャンルを幅広く学びます。多くの学生はその後、2年次課程で専攻を選び、専門分野を深めていくパターンが多いのですが、私はその進路選択のタイミングで、在学中から準社員として働いていたお好み焼店「千房」への就職を選びました。

 その後、千房では約4年間、鉄板前に立ち続けました。調理技術はもちろん、
・お客さまの前に立つ感覚
・声の出し方やタイミング
・忙しい時間帯の回し方
など、飲食店の現場で生きるための基礎を徹底的に身につけることができました。

4resTで食べられる料理いろいろ。メニューにはお好み焼はもちろん、サラダやキムチ、フライドポテトなどの一品料理もそろう。夜はアルコールメニューも充実しているので居酒屋利用にもピッタリ

━━千房で4年働いたあと、なぜフレンチの学び直しを選択されたのでしょう。

宮澤 千房で働いているうちに、「このままお好み焼屋として一生を過ごすのか」という迷いが生まれました。まだ若かったこともあり、フレンチや和食など、ほかのジャンルの料理もきちんと学んでみたい、という気持ちが強くなったんです。

 そこで一度現場を離れ、ブランクはありましたが、再び辻調へ戻りました。今度は2年次課程のフランス料理専攻に進み、1年間、基礎から学び直しました。

━━「お好み焼だけでいいのか」と感じたあと、料理人として次に選んだ場所は、どんなところだったのでしょうか。

宮澤 大阪・中之島に本店のあるリーガロイヤルホテルに就職し、そのフレンチレストランに配属になり5年間働きました。
 オープンキッチンのガラス張りで、お客さまからすべてが見える現場。火入れのタイミング、動線、段取り、皿出しの順序、そして上下関係の厳しさ—— 所作や段取りの精度を、身体で覚えさせられる環境でした。

 このとき、ホテルスタッフとして求められるレベルの高い姿勢が身についたと感じています。

━━フレンチのご経験も、今の店づくりの土台になっていそうですね。 大阪から飯田へはどのタイミングで戻られたのですか?

宮澤 2013年、第1子を妊娠した頃に大阪から飯田へ移りました。生活が大きく切り替わるタイミングでしたね。

━━引っ越しや子育てでさぞお忙しかったと思いますが、お仕事に復帰されたのはいつだったのでしょう。なにか、きっかけはありましたか?

宮澤 第2子が生まれ、保育園に預けられるようになった頃から飲食の仕事に復帰しました。丘の上にある飲食店で働きはじめ、ちょうどオープニングに近い時期から関わることになりました。

 飯田の職場はとても働きやすく、その分、つい「もう少しこうした方がいいのでは」と、必要以上に動いてしまうこともあったと思います。振り返ると反省点もありますが、結果的に「自分のやり方で店をやれたら」という思いをもつきっかけになったと思います。

━━育児のさなかに創業を決められた理由は何でしたか?

宮澤 40代になって、「体力のあるうちに、自分のやり方で料理をしたい」という気持ちが強くなったからです。ふと「あと何年働けるんだろう」と考えたときに、やりたい欲が戻ってきました。起業しよう!と強く決めたというより「これ、できるんじゃない?」と、現場で感じていたことが積み重なっていった感覚です。

━━気力がみなぎってきたという感じですね! そこで「お好み焼店」を選んだのはなぜだったんですか?

宮澤 製菓衛生師の資格もあるので、お菓子の道も考えたことはあります。でも飯田の方に“馴染みやすい”食べ物、日常として受け入れられやすい選択肢を考えたときに、お好み焼が合いそうだ、と確信が深まりました。

 最初から一気に勝負するのではなく、家族や知人、父の関係の方などに焼いて食べてもらい、少しずつお墨付きをもらいながら自信をつけていきました。準備期間は、体感としてここ2〜3年くらいだったと思います。

取材中にも注文が入り、席を立ってお好み焼を焼く一幕も。店内が香ばしい香りに包まれた

食感を大切にした「ふわ寄り」の仕上がりが自慢

━━4resTで食べられるお好み焼の「味の方向性」を教えてください。

宮澤 お好み焼の生地は、ふわっと軽く、外側はほどよく香ばしい仕上がりです。 「もちもち⇔パリッ」でいえば、中間からやや“ふわ寄り”でしょうか。
 生地とキャベツの比率は、在阪時代に身についた感覚が自分のベースにありますが、量よりも、切り方や扱い方によって生まれる食感や甘みを大切にしています。
 ソースは、甘みと酸味のバランスを重視したブレンド。香ばしさやキャベツの甘みを引き立てつつ、後味が重く残らない設計です。

4resTはお好み焼だけで10種のメニューがそろっている。じゅわっと香るソースはこだわりの 2社ブレンドなのだとか

━━食欲をそそる香りですね! お好み焼以外のメニューについても教えていただけますか?

宮澤 はい。焼そばも人気です。コシのある太麺で、ソース焼のほか、塩焼そばも用意しています。また、お好み焼にそば麺が入ったモダン焼、オムそばなどもあります。そのほかさっぱりした一品料理やとん平焼などの鉄板料理、デザートもありますよ。

━━太麺焼そばをはじめ、地域食材の使用にもこだわりがあるそうですね?

宮澤 4resTでは、できるだけ地域内の事業者さんから食材を仕入れることを大切にしています。たとえば飯田市内にある吾妻製麺さんの太麺焼そばの麺は、私の「推し麺」です。食べ応えとコシがあり、鉄板で焼いたときの存在感がしっかり出るところが抜群なんです。

 また、「毎日のごはんとして、体に負担の少ないものを出したい」という思いから、飯田産や長野県産を中心とした国内産食材を使用しています。

 食べてもらうからには「ここでしか食べられないものを」作りたかったので、材料にこだわることは必須でした。

飯田市街地にある吾妻製麺による特注麺を使用した焼そば。コシのある麺、もちもち麺、さまざまなサンプルを検討した結果 、4resTの焼そばはコシのあるものに決定!

━━食材やメニューのほかに、店づくりでこだわった点はありますか?

宮澤 植物は、どうしても置きたいと思っていました。視界に緑が入るだけで、ふっと気持ちが落ち着く感覚があって、その思いは店名の「ふぉれすと」にもつながっています。お好み焼屋としては少し珍しいかもしれませんが、だからこそ、4resTらしい空気感が生まれると思っています。

━━カフェのようなリラックスできる空間ですね。座席やオペレーションにの工夫についても教えてください。

宮澤 壁側にはベンチシートを設けて、子ども連れの方でも安心して過ごせるようにしています。テーブル席にはそれぞれ鉄板がありますが、お客さま自身に焼いてもらうスタイルではありません。基本的には厨房の中で私が焼き上げ、そのまま席へお持ちします。

 目の前の鉄板に、あっつあつのお好み焼が届いたら、一人用のテコで切り分け、そのまま頬張る——。そんな、関西風の楽しみ方を味わっていただけたらうれしいですね。

どの席に座っても、さりげなく観葉植物のグリーンが目に入る店内。お話をしてくださる宮澤さんの背後にも大きな緑が

“距離感・気遣い・所作”が生む4resTらしい接客とファン作り


━━4resTらしい接客や心がけていることはありますか?

宮澤 かつて修行した場にも共通していましたが、やはり挨拶は“店作りの基本”だと思います。ただ、マニュアル通りにやりすぎるのではなく、お客さまの表情やテンポを見ながら、距離感を調整したいとも思っています。

 QRコードでの注文や支払いが苦手そうな方なら先回りして声をかける。困っている人を見逃さない。その「目配り」が、4resTらしい接客の根っこだと思います。

━━店に入ったときの安心感も含めて、4resTは「また来たくなる」設計だと感じました。リピーターづくりや集客面では、どんなことを意識されていますか?

宮澤 Instagramで日々の情報を発信し、LINEも作っていて、予約の導線として活用しています。

 ただ、飯田は「いいね→すぐ来店」に直結しにくい土地柄だなと感じています。気になってくれても、行動に移すまでに時間がかかる。だからこそ、まず一度来ていただいて「行きつけの店」になるまでが勝負だと思っています。

 昼に来てくださった方が、夜に一杯飲みに来てくださるようになる導線も、今後さらに強くしていきたいです。「アルコールメニューとともに楽しんでほしい。お好み焼はお酒に合うことも知ってほしい」——そこは、これからの伸びしろですね。

その日の混雑具合などはInstagramでチェックできるのがありがたい。夜はLINEで予約することもできるなどSNSが活躍している

飯田の日常に根づく、4resTのお好み焼の可能性

━━開業の地として飯田にどのようなポテンシャルを感じましたか。

宮澤 飯田での開業は自宅からの通勤の利便性ももちろんありますが、暮らすほどに「この町には、まだ関西風お好み焼が日常風景になっていない。自分の焼くお好み焼が根づく可能性がある」と感じていました。安心して食べてもらえる素材で、ここにしかない味を。お好み焼を“イベント食”ではなく“日常食”として広げていきたいと思いました。

━━その思いを形にするまでには、現実的なハードルも多かったのではないでしょうか。物件探しや資金面など、創業時に苦労した点や活用した制度について教えてください。

宮澤 物件探しはなかなか見つからないなどかなり悩みました。でも、どうせやるなら人の集まる場所がいいと考え、イベントなども多い丘の上(市街地)をはじめから考えていました。探している間に空き店舗の紹介をいただき、拝見してすぐ決めました。そこからは契約、工事、打ち合わせと、ポンポン進んでいきます。家賃も発生するので、もう進むしかない状況になりました。

 資金面では、飯田市産業経済部商業観光課が主催する「まちなか創業空き店舗活用事業」(家賃の半額を1年間支援など)を申請・活用できたことが大きかったです。軌道に乗るまでの固定費の負担を軽減できました。ただ内装の借入もありますし、返済時期は別で始まります。資金繰りの段取りは、今も学びの連続です。

━━お店を回しながら家庭も回す、宮澤さんの一日はどんな流れなのでしょうか。

宮澤 朝は12歳・10歳・8歳の3人の子どもを送り出してから、仕入れや納品、買い出しに行きます。9:30〜10:00に店に来て昼の仕込み、11:30にランチ営業開始、14:30で閉店。片付けと夜の準備を並行します。

 いったん15時頃に家に戻って、子どもたちの顔を見て、家のことや夕食の段取りをし、17時頃にまた店へ。鉄板を温めるのに1時間ほどかかるので、火を入れて夜の準備をしてから夜営業。SNSの更新は、移動の合間など“すき間時間”でやっています。
 家族との支えあいがあってこそ回っている毎日だな、と感じています。

━━創業してよかったことや、やりがいは何でしょう。

宮澤 やっぱりお客さまの声です。「美味しかったよ」「また来るね」の一言が、一番嬉しい。昼のお客様が夜にも来てくださるようになると、店が少しずつ根づいてきたことを実感できます。

 そして、家族へはどうしても負担をかけてしまう面があるのですが、それでも理解して協力してくれている姿勢が私の原動力になっています。家族へお願い事ばかりになってしまうこともありますが、それでも支えてくれる。そこが本当に大きいです。

4人がけのテーブルが3つ、カウンター4席の合計16席。こぢんまりとした店内には、思わず長居したくなる心地よさがある

ビジコン参加で得た“外の目”と多様な地域のつながり

━━令和7年度の飯田市起業家ビジネスプランコンペティションに出場した理由を教えてください

宮澤 当初、飯田市起業家ビジネスプランコンペティション(以下、ビジコン)の存在は知っていましたが、まさか自分が出るとは思っていませんでした。きっかけは、借り入れ先である飯田信用金庫の担当者さんから「出てみませんか」と声をかけていただいたことです。「チャレンジするだけでもやってみたら」と背中を押され、商工会議所の方も勧めてくださって、挑戦することにしました。

 ただ、営業しながら資料を作るのは本当に大変でした。何もわからないところからのスタートで、出場者の知り合いもいない。そんな状態でも、商工会議所の方に何度も伴走していただき、形にしていきました。

━━実際に参加してみて、印象に残っていることやご自身の考え方の変化についても教えてください

宮澤 商工会議所はもっとお堅い場所だと思っていましたが、話してみるとすごく気さくで、気軽に聞ける感覚がありました。その距離感がわかったことは大きいです。今後も手続きなどで困ったら相談に行ける場所ができました。

カウンター席の一角にビジネスプランコンペ入賞のトロフィーが

━━そうした支援を受ける中で、奨励金についてはどのように活用していく予定ですか?

宮澤 まだ奨励金が手元にないのですが、 使い道として考えているのは、
・テイクアウト強化(小さめサイズやお弁当展開)
・店内で使っているものの紹介+販売ができる小売棚づくり
・紹介用のチラシ制作
・イベント出店を見据えた屋外用鉄板の整備
など、「広げるための投資」です。

━━コンペに参加することで、人とのつながり方に変化が起きたりもしましたか?

宮澤 入賞者同士のつながりができたことが大きいです。特に本町の【大曽根さん(最優秀賞)】とは、業種が違うからこその学び合いがあり、AIを活用した提案や、栄養バランス・カロリー計算など、料理の外側からの支援も教えていただきました。「違う強みが重なる地域の関係」は、すごく心強いです。

営業時間前の店内。ピカピカの厨房・カウンターが心地よい

“働く人の休息”を受け止める店になりたい

━━今後の展望、目指すビジョンはどのようなものでしょう。


宮澤 働く人、日々ストレスを抱えながら頑張っている人、子育て中の人——。そういう方が、ふっと力を抜ける場所であり続けたいです。もっと多くの方に知ってもらい、昼は日常の定食、夜は一杯の相棒として定着させたい。テイクアウトやイベント出店も強化しつつ、町のいろんな場面に4resTの香りがするようにしていきたいです。
 そして自分の店のことだけではなく、丘の上エリア全体が元気になるきっかけになれたら。そんな思いで、日々鉄板に向かっています。将来的には、店内でおすすめ食材の販売などもしたいと考えています。


━━これから起業を目指す方へのメッセージをお願いします。


宮澤 「私でもできた」ということ。それをまずお伝えしたいですね。
計算が得意ではなくても、段取りに自信がなくても、 “譲れない根っこ”と、自分で「これがいい」と思えるものがあれば、道は開けます。
 大切なのは、一人で抱え込まないこと。 商工会議所も金融機関も、想像以上に親身になってくれる存在でした。 いろんな人の意見を聞きながら、自分流にアレンジしていく。 その繰り返しで、今の4resTがあります。 迷っているなら、まず小さく試してみてください。 一歩踏み出せば、次の景色が見えてきます!

━━ありがとうございました。