明るい”空気”と多様な空間で子どもたちの居場所づくりを

━━まるで図書館のラウンジよう。とても明るい室内で広々と感じます。

山田利治さん(以下、山田) ありがとうございます。ここはもともと漫画喫茶でした。喫茶店のような場所を探していて、そんな場所なかなかなかったんですけどね(笑)。

「いい塾かなえる教室」代表の山田利治さん

山田 お子さんが通いやすいように、車を停められる場所や駅近など、立地条件も重要視しましたが、それと同時に明るくて広々とした場所を探していたんです。

━━ひとつひとつのブースも離れていて、個室やフリースペースなど様々なタイプがあるんですね。

山田 自分の勉強スペースは広々しているのが理想。よくあるパーテーションで仕切られた空間も嫌いで…。まさに図書館のラウンジのような場所をイメージして作ったのがこの空間です。

山田 ただ、広々としていると落ち着けない子もいますし、テスト前に集中したい子もいます。そのような子どものためにも最近、完全個室を作ったんです。またガラッと雰囲気が変わりますよ。

山田 教室の一番奥も秘密基地みたいでしょう? 奥にはパソコンが置いてあります。人それぞれ好みがあるので、その時々に応じて好きな場所を使ってもらえる空間にしました。その方が子どもたちも居心地が良いですよね。

━━こういった空間の設計も山田さんが…? 2018年9月開業とお伺いしましたが、開業までにどのような準備をされたのでしょう?

山田 一番大変だったのが物件探しでしたね。ただ、この物件に出会い「ここだ!」と思ってからは早かったですね。テナントを借りてから約1ヶ月後の10月1日にはオープンをしていました。スタートは順調にいったかなと。空間のデザインも自分で考えましたね。こだわりでいうと一番大事なのは環境。つまり空気だと思っていて。

━━大事なのは空気…?

山田 そうです、空気です。雰囲気みたいなものですけど、雰囲気が悪いと空気も悪くなりますよね。今まで勤めていたNPO団体では居場所をテーマに活動していたのですが、居場所を作るためにはいい雰囲気づくりが必要で、そのためには空気が大事なんです。なにより明るいことを重要視しました。

「勉強」という支援で「すべて」の子どもをサポートしたい

━━もともとNPO団体でお勤めとのことでしたが、具体的にどのようなことをされていたのでしょうか? 塾を立ち上げられるまでのお話をお伺いしてもよろしいですか?

山田 私は学生時代、土木の勉強をしておりそのまま建設業に就職したんです。建設業では約8年ほど勤めていたのですが、ある時、後輩が引きこもりになってしまい……。そこから自分にできることは何だろう?と、考えるようになりました。

そんなタイミングで自分も怪我をしてしまい、建設業を離れてリハビリをしていた期間があったんです。その間、少しずつ引きこもりやニートの支援を調べるようになり、だんだんお手伝いをするようになっていきました。そのうちに関心がこちらに向くようになり、方向転換をしてもいいのかなと思い始めたんです。

そんなことを考えていた時に、当時手伝っていた NPO団体の方から、塩尻の「しおじり若者サポートステーション」の立ち上げをやってほしいとお声がけいただいたんです。ここでは約10年ほど働いていました。

━━NPO団体では具体的にどのようなことをされていたのでしょう?

山田 ここでは、学校と連携を取りながら、不登校の子どもたちの支援を担当していました。いわゆる、訪問支援ですね。家庭訪問をして、学校にいけない子どもに勉強を教えたり遊んだり、相談を受けたりしていました。この活動を通じて、勉強をすることは子どもの支援にとても重要なことだと気がついたんです。

━━支援のひとつとして勉強があると…?

山田 そうですね。そういった意味でも「塾」なら同時に「勉強」という形で、子どもたちの支援もできると思いました。支援団体やフリースクールのような形も考えたのですが、それとはまた違ったアプローチで、不登校や引きこもりの子どもだけではなく、すべての子どもの成長に携わることをしていきたいなと思って。

山田 引きこもりは引きこもり、不登校は不登校、とカテゴリー化した支援が多いのですが、私はこのような支援の仕方が好きではなくて。カテゴリーを外して、子どもの支援をしていきたいと思っています。

━━たしかにそのような特別な支援を嫌がるお子さんは多そうですね。

山田 そうなんです。最近は10年前に比べれば、支援も充実してきたと思うんです。ただ、そういう特別な支援を好まない子どもからすればかえって辛い状況かなと。だから、自分はあえて民間の「学習塾」にしました。勉強をする子どもだけが来るのではなく、勉強している子の中に不登校の子が溶けこんでいるような形が理想だと思っています。

━━またなぜ学習塾を飯田市で開こうと考えたのですか?

山田 妻が飯田市出身なのでそれが理由です。現在5歳の子どもがいるのですが、祖父母も近くに住んでいて、子育てにも協力してもらえるので子どものことを考えて飯田市を選びました。

ひとりひとりの課題に合わせた教材とコミュニケーションを大切に

━━昨年、2018年10月のオープンから約1年4ヶ月経ちましたが、現在はどのようなお子さんが通われているのでしょうか?

山田 やはり、近所の子どもが多いですね。中には学校は好きじゃないけど、勉強はしないといけないからと言う理由で通う子もいます。この塾はあえて「不登校の支援の場所」とは出していません。フリースクールなどに案内は出していますが、そういう子が来てもいいんじゃない?というスタンスでやっています。

ここは、ひとりひとりの課題に合わせて一緒に解決していく学習塾。なので受験対策で通う子もいますし、勉強が苦手な子も不登校の子もいますよ。

山田 また、これからは勉強のあり方も多様化していくと思っています。そうなった時にAI教材がとても便利なんです。どれだけ勉強したのか、苦手なの分野はどこなのかなど、あらゆる情報がデータに蓄積されていくので、ひとりひとりに合わせたプログラムや教材が作れるのもいいところです。今では、塾に来ている子のほとんどがAI教材を使用していますね。

ひとりひとりに用意されたイヤホン

━━AI教材が主流なのですね。その他、この塾ならではの特徴はありますか?

山田 日々のコミュニケーションですかね。来た時には必ずひとりひとりと話すようにしています。特に受験生は不安な子も多いので、メンタルのサポートは意識しています。不安って口にすると落ち着くし、ストレスも解消されるんですよ。

━━たしかに。受験生は常に不安の中、戦っていますよね。親や学校の先生には言えない不安も塾の先生になら言えたっていう経験が私にもあります。

山田 自分から不安を言うのって度胸がいるんですよね。だからこっちから聞いてあげるんです。かつてカウンセリングの仕事をしていたこともあるのですが、様子を見るだけではなく、日々のコミュニケーションをきちんと取ることが大事だと思っています。

━━子どもたちにとっても話を聞いてくれる塾の先生の存在は大きいですよね。やる気にさせるためのポイントはありますか?

山田 目標設定をきちんとしてあげることだと思っています。まずは本人の目標設定を聞くこと。そこから今の成績と比較してより具体的な目標を設定してあげています。例えば数学が50点だとしたら、次は60点を目指そうと。あまりハードルを高くしすぎないのがポイントです。これを繰り返してメンタルを補強していきます。

━━「メンタルを補強」ですか?

山田 そうですね。メンタルフォローだけではなく、メンタルを補強するのが大事だと思っています。勉強っていうのは結局最後は自分がどこまで粘れるかだと思うんです。そこで折れずに勉強に欲を出して欲しいなと思っています。

勉強のその先にあるものを提供したい

━━「いい塾かなえる教室」は昨年の飯田市のビジネスプランコンペで奨励賞を受賞されたとお伺いしました。応募のきっかけはどのようなことだったのでしょうか?

山田 私の場合は、開業時期と重なっていたこともあり、これはぴったりだ!と応募をしました。教材やパソコン、机などの初期投資もそれなりにかかるので、優勝できたらいいなあと思って応募しました。

━━受賞されてから周りの変化や反応はありましたか?

山田 新聞などの媒体でも掲載されたので、「こんなことやっているんだね!」て言ってもらえるようになりましたね。学生時代の先輩が声をかけてくれたり、昔の知り合いにも知ってもらえるきっかけになり、良いPRになったと思います。

━━では最後に今後、思い描いている未来についてお伺いできますでしょうか。

山田 一緒に働いてみたいと思う人がいれば一緒にやっていきたいですね。ゆくゆくは生徒も30人、40人と増えて、車の送迎もできるのが理想です。またいろんな考えもありますが、e-sportもこれからの可能性を感じていますので、うまく塾と連携できたらいいなと考えています。

実は昨年、受験生が7人いたのですが、土日も特別講習をしたり、お子さんの気持ちややる気を大切に柔軟に対応していました。結果、みんな合格して親御さんと挨拶に来てくれたときは嬉しかったですね。親御さんも本当に喜んでくれますし、受験の合格というのは引き続き目標にしていきたいです。

ちなみに今、子どもたちに将来何になりたい?と夢を聞くとなんて答えると思います?

━━なんでしょう…。YouTuberとかですか…?

山田 正解!そうなんです。では、YouTuberになるために勉強して意味があるのか?ってなると、みんな勉強にそんな熱心になれないんですよ。そうなったときにYouTuberになるための勉強を教えるのではなくて、もっと勉強したくなることはないかな?と常に考えています。勉強をして、その先にあるものをきちんと提供できる仕組みを作りたいですね。