自身のサイクリング経験から生まれた「体験できる宿」

清潔感のある室内は、どこか家庭的な温かさも 写真=古厩志帆

━━本日は8月にオープンしたばかりのペダルテラスにお邪魔しています。まずはここがどのような宿なのか、お伺いしてもよいでしょうか?

山梨明子さん(以下、山梨) ここペダルテラスのコンセプトは「自転車と体験の宿」です。私は自転車で旅をするのがとても好きで。自転車だと気が付いたものにさっと止まって写真を撮ったり、鳥の声を聞きながら走れたり、その土地をすごく生々しく感じられながら旅ができるんですね。そんな自転車での旅の拠点となるのがペダルテラス。自転車で飯田市を見て回り、「楽しかったな」という思い出を作って欲しいと思っています。

旅を愛する方にも、地域を愛する方にも、この飯田の美しさを感じてもらえる場所になっていきたいんです。

━━ご自身の趣味が事業に繋がっているんですね。自転車との出会いを教えてもらえますか?

山梨 サイクリングを始めたのは5年前です。特に印象深いのが『しまなみ海道(※1)』ですね。当時、私は名古屋で働いていましたが、新幹線でパッと行けて、たった二日間の休みでもふらっと自転車の旅を堪能することができるんです。ここがきっかけで、「楽しむための手段」としてのサイクリングの魅力に惹かれていきました。

(※1)広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶ全長約60kmの海道。瀬戸内海の島々を眺めながら自転車が楽しめる、世界的に有名なサイクリングスポット。

「人との出会いもしまなみ海道の魅力」と語る山梨さん。 写真=山梨明子

━━海の上を走るサイクリング、想像しただけで楽しそうです!

山梨 誰もが手軽に楽しめるのがいいところですね。しまなみ海道ではスタート地点にレンタサイクルが数多くあって、旅行者は自転車を借りて気軽にサイクリングを楽しむことができるんです。サイクリングの経験がない人や体力に自信のない人、事情があってスポーツバイクを所有できない人でも、気後れせずに自転車で走る楽しさを体験できる場所があることが素晴らしいと思いました。

━━ここでの体験が事業運営にも活かされていそうですね。

山梨 そうですね。ペダルテラスではクロスバイクタイプの「電動アシスト付き自転車」をレンタルしています。フラットな道のしまなみ海道に比べて長野県は坂道が多いので、手軽に体験してもらうためにも、電動アシストを選びました。体への負荷も少なく適度な運動量なので、少しの時間でも爽快にサイクリングを楽しめるのがメリット。そこに「宿泊」を組み合わせることで、車で来てサーっと帰るだけでは味わない体験を提供できると確信しています。

━━レンタサイクルを使ってサイクリング体験をされた方もいるとお聞きしました。どのような反応がありましたか?

山梨 はい。都市部に在住の普段自転車に乗る機会のない女性の友人は、最初は「怖い」「そんなに頑張れない」と言っていましたが、少し走ってきてもらうと「すっごい楽しかった!」と言ってくれました。都市部では、車も自転車も持ちにくいライフスタイルの人は多いので、レンタサイクルはそういう人達にもニーズがあると感じています。

看板の電動アシスト付き自転車たち。ペダルテラスのオリジナルステッカーが映えます 写真=古厩志帆

「頭の中のアイデアを形にできるのは自分だけ」デザイナーの経験が道を切り開く

━━山梨さんは飯田市にUターンで帰ってきたとお聞きしました。ゲストハウスをやろうと思ったきっかけをお伺いできますか?

山梨 飯田へ帰ってきたのは2年前。実家のリンゴ農園を継ぐために、神戸出身の夫と一緒に戻ってきました。今、農園は夫がメインでやっていて、私は農業はそれほどできません。だからと言って自分の仕事だけをやっていこうとすると、一人で黙々と家族と離れて時間を過ごすだけになってしまいます。

そうじゃなく、リンゴ農園にも、私自身の今後にも、地域にも繋がりが生まれる仕事をしたいと思ったんです。「それにはどうしたらいいだろう」と考えた時に、宿泊施設を作ることが一番ぴったり当てはまりました。

━━もしや、ここにあるりんごジュースは?

山梨 そうです。自家製のリンゴジュースをお客さんにサービスで出しています。味には自信がありますよ! 他にも、サイクリングをしながらリンゴ農園へ行って、リンゴ狩りをするツアーなども考えていて……。そうやって、私の事業と実家の家業を繋げていけると思ったんです。

山梨さんの実家「矢矧農園」のりんごジュース。室内にはリンゴをモチーフにしたインテリアが所々に 写真=古厩志帆

━━開業される前はどのような仕事をされていたんですか?

山梨 広告デザイナーです。名古屋の大学を卒業後、ずっと広告業界に携わってきました。営業からスタートして2~3年、それから勉強してデザイナーで15年ほど。今も地元の看板屋さんからの仕事や、WEB広告の制作など、デザインは内職程度に続けています。

━━デザイナーさんだったんですね。今回事業を起こすにあたって、この経験が役立ったことはありますか?

山梨 大いにあります。それは融資を受ける際に人を納得させる資料が作れたことです。デザインの仕事では「自分がどう伝えたら相手にどう伝わるか」という、より良いアプローチの方法を考え続けてきました。

その結果がビジネスプランコンペでも役立ったと思っています。企画書では、自身の頭の中を他人に伝わるようにまとめようと思いました。なぜやりたいのか、ここの魅力は何か、なぜ成功すると思うのかを考え、見た人がワクワクしてくれるような企画書を何日もかけてまとめました。その資料を作ることが実現の第一歩だと思って。

━━その結果、見事に準大賞! コンペに応募しようと思ったのはどういったきっかけなんですか?

山梨 開業をめざすにあたり、まずは同業となる飯田市のヤマイロゲストハウスさんに話を聞きに行きました。そこで何から始めたらいいかを伺ったところ、「商工会議所に相談してみては?」と助言をいただいたのが始まりです。

大した準備もせずにその足で商工会議所へ行くと、職員さんが苦笑いで対応をしてくれました(笑)。「まずは必要な物を全部書き出し、全部でいくらかかるのか計算してきてください」と、言われるままに計算してみると、思ったよりも費用がかかることを再認識。その後、売り上げ予測をまとめて持って行くと「170万円の売り上げでは事業とは言えないですね」と言われたりも……。それからも何度も足を運び、意見をもらったり、商工会議所主催の起業家創業塾に参加したりしました。冷静に状況を判断し、次にやるべき小さなステップを一つ一つ教えてくれたのが商工会議所でした。

写真=古厩志帆

山梨 そんなこんなで融資が通ることが決まった頃にコンペの募集があって、かっこいい電動アシスト付き自転車が欲しかったこともあり応募しました。その結果、準大賞をいただきましたが、「そういうのもアリかもしれないですね」と商工会議所の方たちに受け入れてもらえてスタートできた感じです。私の熱意が相当恐ろしかったのかもしれません(笑)。

━━すごい熱意だと思います!

山梨 ありがとうございます。それだけで今までやってきた気がします(笑)。

自分の中にあるアイデアを現実に移せるのは自分だけ。そこを投げ出してしまったら、その発想は歴史上絶対に姿を現わすことは無くなってしまいます。アイデアを形にすることはやめないでいれたらいいなと思って諦めずにやりましたね。もちろん、できるだけ家族に迷惑をかけないために1年以上じっくり考えて計画を練ってきました。

自分の手が届く『身の丈』の投資

━━開業するまでにはどれくらい費用がかかりましたか?

山梨 古民家などの改修費は一般的に1,500万円といわれていますが、私は身の丈に合った経営をしたかったので、初期投資をうんと切り詰めたんです。

━━物件として別荘を選んだのもそうした理由からでしょうか?

山梨 はい、この辺りは遠方に住んでいる別荘オーナー2世の人たちが安く販売している空き別荘が多いんです。それを資源として着目しました。

ここは古民家のような付加価値のある物件ではありませんが、そのぶん自分の手の届く範囲でDIYをしてカスタマイズができると思ったんです。でも実際は予想外に改修費もかさんで、ぎりぎりになってしまったんですが(笑)。飯田市ビジネスプランコンペでいただいた助成金50万円がぴったり自転車投資費用になって、本当に助かりました。

━━ご自身でDIYすることで改修費を抑えたんですね。こういった知識はどこで?

山梨 ほとんどブログとYouTubeでノウハウを学びました。今の時代、ほとんどの作業方法はネットで検索すれば調べることができるんですよ。本当に便利で、道具さえあれば誰でも大工さんのように作業することができます。他にも、画像共有サイトは、お洒落なインテリアを探すのに便利ですね。

━━改修だけでなく、インテリアのデザインもご自身で作られたんですか?

山梨 はい。構想の段階で仕上がりをイメージできるようにネットで理想像を探していました。トイレ、キッチン、玄関など「こんな風にしたい」という理想を自分の中にたくさん貯めておいたんです。このおかげで、一箇所ごとに「どうしよう……」と悩むことなく進められたので、やっていて本当に良かったと思っています。

写真=古厩志帆


━━とは言っても、うまくいかないことや苦労があったのではないでしょうか。

山梨 実際の着工からは頭の中のイメージを吐き出す作業でしたが、現実は思っていたようにならないこともありました。昨年の11月から冬の間は暖房も効かない中で一人で壁紙を剥がしていたんですが、剥がしてみるとまた別の問題があったり……。本当に仕上がるのかドキドキしましたね。

━━想像しただけで大変そうです……。

山梨 そう思いますよね。私も「何でこんなことやってるんだろう」って思う時が絶対あると思って、開業までの期間にすごく遠くまで理想を広げておいたんです。くじけそうになった時に「10年後にサイクリングロードを開設するためには今頑張るんだ」って。そうやって未来のビジョンを描くことで、困難も乗り越えることができました。

写真=古厩志帆

つながりを大切に、地域が一体となる環境づくりを

━━10年後の計画も話されていましたが、今後はペダルテラスをどのように広げていこうと考えていますか?

山梨 これから1~2年間はお客さんのニーズを掴むことです。実際に宿泊してサイクリングを体験していただく中で、お客さんが求めるものを探って、そこに合わせた投資をしていこうと思っています。

具体的な動きとしては、お客さんに地域を体験してもらえるサービスを増やすことです。まずは自転車を使った、実家の農園でのリンゴ狩りツアーから始めてみたいですね。他にも近くの農家さんで夏野菜収穫体験なども。

━━新型コロナウィルスの影響も気になるところですね。

山梨 コロナが悪いって考えるよりも、これはチャンスだと考えています。ワーケーション(※2)や帰省する親戚の居住地としてここに泊まってもらったりなど、このご時世だからこそできるサービスがあると思っています。

(※2)「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語。観光地などで休暇を取りながらリモートワークをする働き方。

━━今後は棟数を増やすことも考えているんですか?

山梨 そっちの未来はあんまり…(笑) 棟数を増やすのは危険で、物をたくさん持つと固定資産税もかかってきますし、最後にどうするかっていうのも大事になってくるので。物が多いのがいい時代じゃなくなってきましたよね。

━━1人の荷物を少なくして、みんなで繋がって……。

山梨 そうそう。ゲストハウスさんは他にもたくさんあるので。上手に繋がる方法を模索していく方がいいと思います。まずは、1人でここを切り盛りし、リンゴ農園も把握できるようにしていくことが目標です。ただ、今後いろいろ協力してくれる人が多くなると、できることも増えてくるかな。

━━今後、こういう人たちが増えてきたらこのエリアはもっと良くなっていきそうですね。

山梨 このエリアで増えるのもいいと思うし、電動自転車で違う施設まで行って自転車を置いて帰ってくる乗り捨てシステムが地域全体でできたら、しまなみ海道のように自転車が目的で遊びに来れる場所になると思っています。10年後の夢としては、そういう環境まで作っていけたらいいですね。

写真=古厩志帆

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