東京スカイツリー、GINZA SIX、バスタ新宿……名だたる施設の「壁」で積み上げた実績と経験

━━いつもこの辺りを車で走っていますが、今日はじめてお伺いしました。ウェブサイトや、この会議室の壁面を拝見してもわかるとおり、東京スカイツリー、GINZA SIX、バスタ新宿など日本を代表する数々の建築物に関わっていらっしゃるのですね。

社内会議室の壁面には、ミヤコーの主力製品である金属焼付塗装パネル「ミューウォール」のサンプルとともに、輝かしい実績の数々が紹介されている

宮澤正二さん(以下、宮澤) ありがたいことに、たくさんの素晴らしいご縁をいただいてきました。

弊社はもともと、私の父が町の鉄工所として飯田市の上飯田で創業したのですが、街の発展とともに手狭になり、また音の問題なども浮上したため、市の方のご紹介を受けて昭和56(1981)年に現在の場所へ移転をしたんです。

その移転の少し前から、いわゆる鉄工所の低単価な仕事から製品の高付加価値化へと方向転換を図ろうと、鉄からステンレス加工へと事業を移行させていました。そして1986年、まずは地元の商社との連携で金属外壁材の製造を開始し、徐々にお取引先様の幅を広げてきました。

株式会社ミヤコー・代表取締役 宮澤正二さん

━━ ここ飯田市で、東京スカイツリーの内壁が製造されていたなんて、と驚いてしまいます。どのようにしてこうした大プロジェクトに参画するようになっていったのですか?

宮澤 いやあ、もう夢中で飛びついていったんですよ。私が家業に入った1980年代当時はすでに建設業界も厳しい時代でしたから、地元にも仕事が少なかったんです。それならばとまず県内の大きな街、そして次に都市圏へと営業範囲を広げました。

地方よりは首都圏のほうが仕事の絶対量はあるけれど、それでも我々のような後発の会社をいきなり相手にしてくれるほどの余裕はありません。ささやかな仕事からでも、という想いから「くつずり※一本からでも御用命ください」とお声がけし、少しずつ信頼を獲得してきたんです。

※くつずり…引き戸では「敷居」にあたる、ドア枠の床面部分の小さな部品

もちろん、一度営業に行ったからといってすぐにお仕事をいただけるわけでもない。むしろそういう(すぐに頼まれる)ところは、あとあとリスクが高いというのが、経験してわかってきましたね。大企業になればなるほど発注は慎重ですし、こちらに求められるハードルも高くなります。けれど、それを超えていかなければ私たちの会社の未来はないと思っていましたから。

「ミューウォール」製造現場のようす。耐久性はもちろん、多様な金属素材を扱ってきた実績、自由なデザイン加工への対応、豊かな色調などが強みとなっている

都市はもちろん、過疎地にも水の備えを。いまこそ注目したい「水蔵」への想い

━━ 今回、I-Portの支援事業となったのは金属パネルではなく、緊急用直結式飲料貯水装置「水蔵」ですね。建材メーカーとして第一線の現場でご活躍されてきた御社が、まったく異なる分野に見える「水蔵」を手がけているのが、すこし意外に感じていました。

宮澤 いえいえ、このタンクもステンレス加工品ですので、私たちが得意とする技術を生かした商品なんですよ。ただ、私たちがこれを扱うようになるのは、たしかに不思議なご縁でした。

「水蔵」はもともと、群馬大学と群馬のある企業が共同開発した商品です。それを試作した企業も群馬県にあったのですが、開発元の社長がなぜか「製造は長野県の、飯田のほうでやったらいいんじゃないか」と言い出したそうなんですね。

そこで彼らは飯田市の商工会館を訪ね、これがつくれる技術をもつ企業はないかと問い合わせたところ、「ステンレス加工ならミヤコーだ」と、私どもをご紹介くださったそうで。そんなところからこの商品に関わるようになったんです。

緊急用直結式飲料貯水装置「水蔵(みずのくら)」。内容量は30ℓから500ℓまで、設置方式もマンションタイプ、一般住宅タイプなど多様に揃えられている

━━ 水道管にこの「水蔵」のタンクを直結するだけで、日々水を使うことでタンク内の水が入れ替わり、常に清潔な水を貯水しておくことができる。「その手があったか!」と膝を打つような画期的なシステムです。

宮澤 ありがとうございます。かつて集合住宅にあったような、「水を別の水槽にためておく」タンクではなく、日常で水道水を使うという行為により、自動的に水が入れ替わりながらプールされている状態になるのが「水蔵」の大きな特徴です。

ペットボトルの水を買っておく必要もなく、安心できる日本の水道水を蓄えておける。いつもタンクのなかにあるのは新鮮な水です。日々の水道代があがることもありません。

「水蔵」タンク内の流れのようす。特殊導入ノズルでタンクの中に水流を発生させることで、新鮮な水がすみずみにいきわたり、洗浄など設置後のメンテナンスの必要もない。
本社前にディスプレイされた「水蔵」の数々。敷地内には実際に水道管に直結させた水蔵が設置されており、災害時断水した際には近隣住民に水を提供できる体制となっている

宮澤 とはいえ、私たちが水蔵の製造を開始した2005年当時は、まだ今ほど災害への危機意識が高まっていなかったんです。それが近年、地震や台風など自然災害が増えてきたことによって、防災に関心が寄せられるようになり、水の確保の重要性も報道される機会が増えてきました。

今こそ多くの方に、「水蔵」の存在を知っていただき、設置していただくため、I-Portのお力を借りたいと考えました。

━━ 実際に今、I-Portの利点を実感されている部分はありますでしょうか。

宮澤 もともと私たちはものづくりの会社ですので、どうしても営業力に欠ける部分があります。今回、I-Portのご支援をいただけることになったのは「お墨付き」をいただいたようなものですので、地域での信頼も高まったと思っています。

じつは当初、この商品が必要とされるのは都市部だと考えていたんです。けれど近年の被災地の状況を見ていると、過疎地にも重要な設備だと実感しています。地方では、食べるものの蓄えはあっても、水道が寸断したときに安心できる水が手に入るとは限りませんから。

━━ たしかに。たとえば川が近くにあるからといって、その水を私たちが直接飲んでいるかというと、そうではないですものね。

宮澤 そう。ただでさえ脆弱な交通網が破綻したとき、陸の孤島となり、何日も水が運ばれない、という事態に陥っている報道も、目にしますよね。

飯田下伊那地域では徐々に認知が高まり、すでに自治体として導入補助を決定していただいているところもあります。ここからもっと多くの方に届けるために、このような情報発信を続けていただけたら、ありがたいですね。もちろん、私たちも飯田市のI-Portに認定いただけたことを積極的にアピールしていくつもりです。

来年で創業60年。世界に通用するものづくりを、飯田から。

━━ 2022年で創業60周年とのことですが、最初に手応えを感じたお仕事のことは、覚えていますか。

宮澤 思い浮かぶのは、当社の外壁材で上海にある日本総領事館の仕事を受注したときでしょうか。私たちの製品が海外で使われたのも初めてでしたし、国の重要な建物に携わることができ、ひとつ大きな自信につながりました。

もう一つ、今も忘れられない仕事といえば、やはり東京スカイツリーですね。覚えていらっしゃるかな、3・11の東日本大震災が起きた当時、あのタワーは建設中で。ちょうど、私たちが納める内壁パネルの第一便を出荷する日だったんです。

━━ なんと……!大きな事故にはなりませんでしたか。

宮澤 おかげさまでスカイツリーに出荷する便は大事には至らなかったのですが、その同時期に国のある施設の建設にも関わっていたんです。そこがちょうど、屋上の防水加工中でタールを使用していて。テレビを見たら、その建物から煙が出ていて、どうなることかと肝を冷やしました。その後も、長くサプライチェーンが混乱してしまい、経営環境としても厳しい時期が続きましたね。

それでも、スーパーゼネコンさんが関わるような大事業は、一つひとつの実績が一人歩きして名刺代わりになってくれる。無事に設置され使われていれば、次のプロジェクトもミヤコーで、とお声がかかるようになります。

まず、一つひとつの受注に確実にお応えすること。もちろん失敗をすることはあるけれど、そのときは責任回避をせず、誠心誠意対処する。対処を間違えなければ、かえってつまずきを乗り越えたことで信頼や関係性が深まることさえありますから。そうした積み重ねで、こんにちまで続けてくることができました。

━━ まさにI-Portが理想とするとおり、飯田市から全国へ、世界へご活躍です。最後に、地方で事業を行うむずかしさや、逆に強みについても、教えてください。

宮澤 地方にいるからといって、それがウイークポイントと考える必要はないというのが私の実感です。すでに新型コロナウイルス感染症が問題になる前から、大企業ではリモートワークが浸透してきていましたから、コロナが明けてもその流れが戻ることはないでしょう。むしろ飯田にいることで、私たちもストックヤードも含め近距離に敷地を確保することができ、ワンストップで製造に注力できている、という強みを感じていますから。大切なのは一歩踏み出し、研鑽を重ねることではないでしょうか。

たしかな製品で一つひとつの信用を重ね、変わる時代にも対応しながら、これからも私たちは、ここ飯田でお客様のご期待に応えるものづくりに取り組んでいきたいと考えています。


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