コロナ禍におけるワークスタイルの変化や、生活、価値観の多様化にともない、自身の「やりがい」や「生きがい」を地方に求めて積極的に活動する人が増えています。そんな中、丘の上結いスクエア内ムトスぷらざにて、「地域起業」をテーマにしたトークセッションイベントが開催されました。
飯田市の結いターン移住推進課が「就職以外にも『地域で働く、暮らす』方法があることを伝え、地域内の若年世代にも将来的にUターンの選択肢を広げて欲しい」との思いから企画した今回のイベント。「今こそ地域起業が面白い5つの理由」と題し、面白法人カヤックCEOの柳澤大輔さんと、公益社団法人ジャパンチャレンジャープロジェクト代表理事の中川直洋さんを迎えて、①トークセッション ②参加者との意見交換・雑談タイム ③参加者プレゼンテーションの3部構成にて行われたイベントの模様をお伝えします。
【イベント報告】「今こそ地域起業が面白い5つの理由」面白法人カヤック・柳澤大輔氏×ジャパンチャレンジャープロジェクト・中川直洋氏
「いま、地方での起業が一番面白い!」中川直洋さん
トークセッションは、今回リモートで参加した中川直洋さんのトークからスタート。中川さんが代表理事をつとめるジャパンチャレンジャープロジェクトは、食の六次産業や観光プログラムなど原石が埋まっている「地方」こそチャンスの場であると捉え、地域で起業に挑戦するチャレンジャーの発掘、育成、発表、事業化をトータルでサポートしている法人です。
都心には情報や人材が集まり起業しやすい環境が整っていますが、家賃や人件費などコスト面での大きな課題も存在します。一方、地方での起業は、物件、人件費も含めてコストを抑えることができるというメリットがあると話します。
加えて、「日本には六十代、七十代のアクティブシニア層がいる。定年を迎えて時間もあり、お金もあり、車にお金をかけたり、ハーレーに乗って楽しんでいる人たちもいる。その人たちがどこにいくかといえば田舎でしょう」と、中川さん。コロナの終息後にはインバウンドの需要も復活し、地方にこそ大きなマーケットが生まれると推察します。
ジャパンチャレンジャープロジェクト主催の「JAPAN CHALLENGER AWARD」に参加した「古民家レストラン」や「健康食堂」「酒蔵体験」「山小屋の再生プロジェクト」などの事例を紹介しながら、「我々は地方での起業こそ最強のビジネスモデルだと考えています!」と力強く語った中川さん。そんな中川さんが現在注目しているのは、シルクの原料である「繭」の輸出だそう。現在のように円安の状況下では日本の製品を海外で売ることで大きな利益が生まれます。
「繭だけでなく、農産物を海外へ輸出するのもいい。地方で農業っていうのが、いまむちゃくちゃ面白いし、儲かりますよ!」(中川さん)
「移住者が求めるのは、その街ならではの地域資本」柳澤大輔さん
続いて話を聞かせてくれたのは柳澤大輔さんです。柳澤さんがCEOをつとめる「面白法人カヤック」は、鎌倉に本社を置き、地域から新たな資本主義を考える会社。広告企画やゲーム制作、地域通貨、関係人口促進など固定概念に囚われないユニークなサービスを次々と手掛け、近年では「面白い自動販売機を作ってほしい」というオーダーから生まれた「社長のおごり自販機」や横浜の「うんこミュージアム」などの企画が大きな話題を呼びました。
地元・鎌倉を盛り上げるため、住民参加型のプロジェクトも多数手掛けており、そのひとつが、楽しみながら街を活性化する活動「カマコン(鎌魂)」です。定例会には毎月150名以上の個人・組織が参加。その要となっているのがブレスト(ブレーンストーミング)です。
「プレゼンターは新たに立ち上げるプロジェクトの課題について5分でプレゼンします。その後、参加者は応援するプロジェクトを決めて短時間でたくさんのアイディアを出しあうんですね。これがブレスト。これをやると不思議とそのプロジェクトが”自分事”化して応援したくなるんです」と柳澤さん。
この「カマコン式ブレスト」は地方活性化のひとつの手段として全国に展開され、各地で熱い交流が起こっています。
また、カヤックが手がける事業のひとつに移住スカウトサービス「SMOUT」(スマウト)があります。地域に関わりたい人と関わってほしい人をオンライン上でつなげるサービスで、飯田市も参加しています。
「コロナ禍で移住のニーズは数字的にも圧倒的に増えました。仕事はテレワークでやっているから移住したいという人も結構いる。わざわざ東京じゃないところに移住したい方は、経済的な価値ではなくその街特有の環境資本、自然や文化、人と人とのつながりを求めている。自分が好きな感覚の人たちがいるとか、同じことを好きな人たちがいるとか、そういう場所に住みたい。それが動機なんですね」と柳澤さん。そうしたお金で買えない幸せ=環境資本を伸ばすためのひとつの手段として生まれたのが、柳澤さんがいま「夢中になっている」と話す地域コミュニティ通貨「まちのコイン」です。
人やまちとつながる体験や、誰かの役に立つボランティア、エコな活動を通じてコインをあげたり、もらったり。日本円には換金できませんが、お金では買うことのできない「地域とつながるうれしい体験」に出合えるのがまちのコインの大きな魅力と話します。
現在、全国21カ所で導入されており、音楽や演劇、本などの文化を応援する東京下北沢の「キッタ」や、ゲームなど特有のカルチャーを軸に企業と店舗が協働してつくる秋葉原の「アキコ」、名産の八女茶をはじめ歴史や伝統、自然を活用した福岡県八女市の「ロマン」など、街ごとのテーマに合わせた体験が用意されているのも特徴。地域の課題解決やありたい姿に合わせてテーマを定めることもできます。
「移住する人はその町の『何か』に期待して移住をする。幸せの価値観は様々ですが、自分たちの町の方向性や価値を自分たちで考えて作り上げていける。それがまちのコインなんじゃないかと思います」(柳澤さん)
そしてトークセッションの最後には、改めて柳澤さんから中川さんにバトンが渡る場面が。「今回のタイトルである『地方起業が面白い5つの理由』、その5つとは何ですか?」柳澤さんにそう問いかけられた中川さんから、以下の5つが提示されました。
①働き方の多様化
②投資。面白いことに低投資したい人が増えていること
③デジタルの発展、また「まちのコイン」などITと地方は相性がいいこと
④面白い人が地方に集まってきていること
⑤マーケットの変化、円安における海外輸出の可能性
後半は、これらの項目にも関わる雑談タイムに続いていきます。
雑談タイムでは、市民の「お悩み」に新たな視点でアドバイス
お二人からの興味深いお話に、静かに熱を帯びてきた会場。後半は、参加者を交えた雑談タイムです。「聞いてみたいことや感想などありましたらぜひ」という司会者の言葉に次々と手が挙がりました。
中でも一番多かったのが「地域通貨」への質問です。
「資本のない状態でスタートしてビジネスモデルはどうなっているの?」「うまくいった地域とうまくいっていない地域は?」「地域通貨での物価の指標は?」「3万人のユーザーがいる中で年齢層の割合は?」など様々な質問が寄せられ、その一つひとつに柳澤さんが丁寧に回答しました。
東京と横浜から夫婦で飯田市へ移住し、梨の栽培を始めたという女性からは「中川さんが『これから農業が面白い』と熱くおっしゃっていましたが、具体的にどうやれば面白いでしょうか」という質問が。
これに中川さんは「作物を作って農協に売るだけというのはつまらない。農業を通じて消費者の顔が見えることが大事だから、しっかりブランディングをして梨を作り、都心で営業開拓をしていけば良いのでは」とコメント。また、ある町のふるさと納税で「オンラインもぎ取り体験」をふるさと納税に取り入れた例を参考に「ふるさと納税は大きなチャンス。行政の担当者で面白がってくれる方を探したり、地域のみんなで売り込みに行ったり、そうした道を見つけていくと楽しくなると思うよ」とアドバイスしました。
続いて、トークセッションで話が出た「繭」の事例のように「地方で展開できる農作物で輸出に適している具体例はありますか」という質問には「伊那に、有機米を海外に輸出している事例がある。アメリカの有機へのこだわりは日本の比ではないし、アジアの富裕層の間でも日本ブランドは信頼感がある。日本の価値を最大限に生かして世界にブランディングしていくことが大切。どれが刺さるかというのは自分で考えないといけないですね」と話しました。
さらに、起業を実現させたい方へのアドバイスとして「低投資をしてくれる人たちを探す」という中川さんからの言葉を受けた「どういう方達がどういう投資をされていますか、地方にも投資をしてくれる人がいますか?」という質問が。
これに対し、「従来、地方では利益の回収ができないから、投資ではなく補助金を出すという流れがありましたよね」と中川さん。しかし、地方であれば低い投資額でのマーケティングも可能という点を指摘し、「皆さんにぜひ覚えてもらいたいのは補助金頼みで起業するのではなく『稼げる』ということを前提に事業モデルを作って欲しい。そうすれば、数十万、数百万の低投資ですから『稼げるならいいよ。一緒にやろう』と面白がってくれる人が出てくるはず」と付け加えました。
一方、柳澤さんは「地方の起業に投資するファンドも実際出てきていますが、投資する人の動機は今のところSDGs、社会にいいこと、環境にいいことをやっているという要素の一つとして全体の投資の一部を地域の企業に張るか、もしくは『儲かる』というよりは理念ですね。うちの会社のように地方を盛り上げた方が資本主義が良くなると考える企業は少しずつ増えてきていますが、まだ『地方の方が儲かるから張っておく』という投資家に出会うことはほとんどないと思います」と自らの考えを伝えました。
これに「それでも、地方には魅力がありながらも埋もれている事業がまだまだあると思う」と語った中川さんの言葉から、「そうした魅力ある事業を発掘し、投資することもひとつの方法」と話は発展。
「たしかに、会社を手放す人も増えてきているから、地元の会社を引き継ぐ若者がもっと増えるといい。それも起業のひとつの選択肢になりますよね」(柳澤さん)
最後に行われたプレゼンタイムでは飯田市で建築デザインを手掛け、古民家の改修を行っている男性から事業の展開に関する相談や、地元飯田市天龍峡で「ナイトミュージアム」を企画、運営している男性からのプレゼンが行われ、お二人から様々なアイディアが贈られました。
参加者からも積極的に質問が寄せられ、活気に溢れていた今回のイベント。地方起業の可能性について改めて考えさせられる機会となりました。
普段は話を聞けない様々な「仕事人」が登壇するイベント「いいだのちゃぶたい」は今後、シリーズ化も予定しているとのこと。どんな方が登場するのか、次回の開催も楽しみです。
柳澤大輔(やなさわ・だいすけ)
面白法人カヤック 代表取締役CEO
1998年、面白法人カヤック設立。鎌倉に本社を置き、ゲームアプリや広告制作などのコンテンツを数多く発信。SDGsの自分ごと化や関係人口創出に貢献するコミュニティ通貨サービス「まちのコイン」は全国14地域で展開中(2021年11月時点)。さまざまなWeb広告賞で審査員をつとめる他、ユニークな人事制度やワークスタイルなど新しい会社のスタイルに挑戦中。著書に「鎌倉資本主義」(プレジデント社)、「リビング・シフト 面白法人カヤックが考える未来」(KADOKAWA)、「面白法人カヤック社長日記 2015年-2020年愛蔵版」ほか。まちづくりに興味のある人が集うオンラインサロン主宰。金沢大学 非常勤講師、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授。「デジタル田園都市国家構想実現会議」構成員。
中川直洋(なかがわ・なおひろ)
公益社団法人ジャパンチャレンジャープロジェクト 代表理事
1987年大手証券会社に入社後、2002年よりワタミに入社、ワタミ創業者渡邉美樹の執行役員社長室長として10年間秘書を務める。2019年レオスキャピタルワークスの藤野英人氏、面白法人カヤックの柳澤大輔氏らと公益社団法人ジャパンチャレンジャープロジェクトを立ち上げる。いざ鎌倉!JAPAN CHALLENGER AWARD 建長寺など全国で開催し、地域起業家や社会起業家を250名ほど発掘サポートしている。
この記事が面白かった!新着記事のお知らせを受け取りたい!という方はイイねボタンを押してくださいネ♪応援よろしくお願いします!