2024年7月、飯田市座光寺のアパートの一室でオープンしたrukous。オーナーの細谷知世さんは、かつて社会福祉士として医療・福祉の現場で働き、心と体のバランスを崩してしまった経験から「自分を大切にすること」の重要性に気づき、トータルケアサロンの開業を決意しました。
「予防医学やメンテナンスを当たり前にして飯田市を元気にしたい!」との思いで挑んだ令和6年度「飯田市起業家ビジネスプランコンペティション」では起業家部門で入賞。今も新たな挑戦を続ける細谷さんに開業への経緯と思いを聞きました。
2024年7月、飯田市座光寺のアパートの一室でオープンしたrukous。オーナーの細谷知世さんは、かつて社会福祉士として医療・福祉の現場で働き、心と体のバランスを崩してしまった経験から「自分を大切にすること」の重要性に気づき、トータルケアサロンの開業を決意しました。
「予防医学やメンテナンスを当たり前にして飯田市を元気にしたい!」との思いで挑んだ令和6年度「飯田市起業家ビジネスプランコンペティション」では起業家部門で入賞。今も新たな挑戦を続ける細谷さんに開業への経緯と思いを聞きました。
――わあ、アロマのいい香り。入った瞬間にホッとできる空間ですね。
細谷 ありがとうございます。最小限の予算でスタートしたので、手の込んだ内装にはできませんでしたが、来てくださる方が穏やかな気持ちで過ごせるよう心を配っています。

――ここでは、どんな施術が受けられますか?
細谷 脱毛は年齢、性別を問わずどなたでも受けられます。トリートメントや腸セラピーは女性が対象で、男性は紹介制で受け入れています。
最初にじっくりお話を伺い、心の状態や体のゆがみなどをチェック。骨格の歪みや可動域、姿勢のクセなどを見ながら、「今日はここをゆるめよう」「このバランスを整えよう」と一人ひとりの状態に合わせてプランを組み立てていきます。
――丁寧なカウンセリングから始まるんですね。
細谷 はい。お話を聞き、体と心の状態を見ることで不調の根本を探すのが目的です。たとえば「腸セラピーを受けたい」と来られた方でも、実は背中の張りや首のこわばりが原因で内臓の動きが悪くなっていることもあるんです。
お話を聞くうちに、本人も気づいていなかった不調が見つかることもあります。全身を評価してその方に必要な筋肉、筋膜、トリガーポイント、内臓へのアプローチをしていきます。
――なるほど。その人の声を“体から聞く”ような感覚ですね。
細谷 まさにそうです。だからこそ、メインは90分・120分・150分の時間制のメニューにしています。
ここで過ごす時間だけを決めてもらい、その中に腸セラピーやヘッドスパなどその時に必要なケアを組み込んでいきます。必要と感じたら、ブロッサムスチームやハーブボールなどオプションメニューをご提案することもありますね。ともあれ、メニュー選びで悩むこと自体がストレスになる方も多いので、ここでは“考える時間”からも解放されてほしいと思っています。

――もともとは医療の現場にいらっしゃったとか。
細谷 はい。日本福祉大学を卒業後、長野へ戻り、諏訪地域の病院でソーシャルワーカーとして働いていました。
患者さんやご家族の相談を受けたり、退院後の生活を一緒に考えたりする仕事です。やりがいはありましたが多忙な中で心身の負担が重なり、いつのまにか眠れなくなり、体調を崩してしまって。
――心も体も限界に近かったんですね。
細谷 若かったこともあり、自分のことは後回しで走り抜けていた気がします。そんな中でふと「自分を整えたい」と思い、仕事を辞めてハワイへ行くことにしました。
――ハワイではマッサージのスクールにも通われたそうですね。最初から学びが目的だったのですか?
細谷 いえ、最初はただ「休みたい」という気持ちだけでした(笑)。でも、せっかく行くなら何か身につけられたらと思い、ロミロミマッサージのスクールに通ったんです。3か月という短い期間でしたが、現地の先生から学びながら“人の手の温もり”がどれほど心を癒やすかを実感しました。
――ロミロミは、古代ハワイアンが心と体を癒やすために行っていた伝統的な施術なんですよね。
細谷 手の温もりや香り、ゆったりとした呼吸のリズムが“人を整える力”を持っているなと感じました。病院で勤務していた頃から病気に悩む患者さんを多く目にして「もっと早く不調に気付いていたら、ここまでつらい思いをせずにすんだのでは」と感じていたので、その思いが徐々に“予防ケア”へとつながったのだと思います。
――ハワイで過ごした時間が、細谷さんご自身の心も解きほぐしてくれたのですね。
細谷 はい。心が軽くなり「もっと前を向いて、自分のやりたい道に進もう」と思えるようになりました。
ハワイで暮らす人たちの“自然体”な姿にも影響を受けました。日本では電車やバスが1分遅れただけで車掌さんが謝りますが、ハワイでは30分遅れても誰も気にしない(笑)。そのゆるさに救われたんです。水着姿で海に行く時も、どんな体型でも恥ずかしがらない。自分らしく生きることの大切さを教えてもらいました。

――帰国後はすぐにセラピストの道へ?
細谷 最初は脱毛サロンに勤めました。そこで「ロミロミもやっていいよ」と許可をもらったので、サロンのメニューとしてマッサージの施術も始めました。
その後、飯田店のオープンを機に店長を任されるなど、やりがいは感じていましたが、ロミロミだけではどうしても届かない部分があると気づいたんです。癒しにはなるけれど、根本の改善までは難しいと。
――そこで出合ったのが、ホリスティックリメディアルセラピーですね。
細谷 はい。SNSで国際ホリスティックリメディアルアカデミー(IHRA)の情報をたまたま目にして「これだ!」と思いました。
リメディアルセラピーは筋肉や骨格、内臓の状態までみていく体の不調の根本改善を目的としたマッサージです。オーストラリアでは国家資格にもなっていますが、日本では同じレベルで学べる環境が少ない。そんな中、世界基準の知識を学べる場があることを知り、仕事をしながら休日に県外のアカデミーへ通いました。資格取得まで2年かかりましたが「心・体・栄養をすべて見る」という考え方に出会えたことが、私にとって大きな転機になりました。

――開業を決意したのもその頃ですか?
細谷 そうですね。学びを重ねるほどに、自分が理想とする施術の形が明確になっていきました。でも、勤めていたお店には当然ながら方針があるので、そこまで自由にはできなくて。「だったら自分でやってみよう」と決意したのが36歳のときです。
――そこから「rukous(ルコス)」誕生まではどんな道のりでしたか。
細谷 起業を決意したはいいけれど、何から始めていいのか分からなくて。まずは飯田信用金庫へ相談に行きました。資金面のアドバイスと一緒に「飯田市のビジコンに出てみたら?」と薦めてもらったんです。
応募を通して、自分の思いを言葉に整理できたのは大きな収穫でしたね。入賞の支援金は設備の導入費や新しい学びのために使わせていただきました。
――rukousをオープンしたのは昨年ですね。
細谷 はい。2024年の夏です。最初は「お客様が来てくれるのかな」と不安でしたが、SNSや報道をきっかけに来てくださる方や、紹介などを通じて徐々にお客様も増えました。
そんななか、「やっと見つけた!」と声をかけてくださったお客様がいたんです。以前のお店を辞めてからしばらく会えずにいた方なのですが「細谷さんどうしているんだろう」とずっと気にかけていてくださったそうで。本当にうれしかったですね。

――お客様からの信頼の理由、ご自身ではどんな点にあると思いますか?
細谷 一人ひとりに丁寧に向き合うことを大切にしているからでしょうか。時間とお金をかけて来てくれるのに、効果を感じられなければ意味がないし、私自身が嫌なんです。だからこそカウンセリングでじっくりお話を伺い、もっとも適切な施術を提供できるよう、頭をフル回転させて考えます。また、毎日忙しくて自分の体の声が聞こえない状態が続くと、突然、心や体が病気になってしまうこともある。体と心はつながっているので、ここで少し肩の力を抜いて、自分を見つめ直す時間にしてほしいです。

――来店されるお客様の層は?
細谷 脱毛は小学生から60代まで幅広く、親子で通ってくださる方もいて、痛みが少なく効果も高いと喜ばれています。アロマトリートメントは30〜40代の女性が多いですね。仕事や家事、育児に追われて自分のことを後回しにしがちな世代です。「身体がポカポカして軽くなった」「寝つきが良くなった」「頭痛薬を手放せた」といった声をいただくと、続けてよかったなと感じます。
――これから挑戦していきたいことは?
細谷 新たに自律神経を整える施術を学びたいと思い、少しずつ動き始めています。同時に、「産後ケア」にも力を入れていきたいですね。
ベビーマッサージやおっぱいマッサージなどもありますが、それらはすべて赤ちゃんが主役のもの。私がやりたいのは“お母さんのケア”です。
――お母さん自身のケア、ということですね。
細谷 産後1か月は本来、何もせずに体を休めなければいけない大切な期間なのに、現実はそうはいきません。家事や育児に追われ、気づけば体がボロボロになり、心に余裕がなくなってしまう。そんなお母さんたちを少しでも支えたいと思っています。
出張の形になるので体制を整えるまで時間はかかるかもしれませんが、少しずつ準備していきたいです。
――やさしい言葉の奥に、強い信念が感じられます。
細谷 自分が一度、心も体も壊しかけた経験があるからだと思います。その時に感じたのは、「自分を大切にできなければ、誰かを大切にすることはできない」ということ。だから日々がんばっている人にこそ、自分を癒す時間を持ってほしいんです。

――これからの目標は。
細谷 私は“南信州のすべての女性を元気にしたい”という思いで活動しています。疲れをため込む前に整える、がんばらなくちゃいけない人ががんばれる体と心をつくる、そんなメンテナンスを当たり前にしていきたい。そして「がんばりすぎなくていい」「少し休んでも大丈夫」と、心を軽くできるようなメッセージをこれからも伝えていけたらと思っています。
――最後に、起業を志している方へメッセージをお願いします。
細谷 考えているだけでは何も変わりません。まずは一歩、踏み出してみてください。もちろん不安もありますが、失敗しても“健康”さえあれば何度でもやり直せる。私自身もそう感じながら、日々前に進んでいます。そうして積み重ねた小さな一歩が、気づけば大きな前進になっているはずです。
