飯田の町を面白くしたい。
そんな「きざし」が刺激に

——なぜ「いいだエリアマネジメント」を立ち上げたのでしょうか?

宇佐美 飯田市で「なにかやらまいか」という話を高校の同級生とずっと前からしていました。みんな何かしたいっていう思いがあって、きっかけを待っていて。僕は飯田高校の出身ですが、高校を卒業するとほとんどが都会に出るんです。でもみんな仕事がなくて帰ってこられない。東京で高校の同窓会があると、それを気にしている人が結構多いんです。「飯田のために何もできない、何かやりたいけれど戻れない」と。そういう気持ちを汲み取って、つなげていく役目ができるんじゃないかなと考えました。

宇佐美茂樹さん(写真左)写真=内山温那

——地元への想いがあるんですね。

宇佐美 飯田高校の校歌には「都の塵も通ひこぬ」というフレーズがあります。それくらい田舎で、都市から遠い。でもだからこそ、独特の文化が熟成されている感じが好きで。先日、20代の子たちに「リニアが来たら都会みたいになってほしい?」と聞いてみると、「逆に変わってほしくない。買い物だったら都市部に行けばいいし、私はここが好きだからここにいるんです」と言っていました。

それから、飯田のなかにいろいろな「きざし」があるんですよね。若い人たちがゲストハウスやカフェを作ったり、リノベーションのワークショップを始めたり、飯田を変えようとがんばっている。そういう動きも、すごく刺激になりました。ファーストペンギンにはなれませんけど、飛び込んでも大丈夫、セカンドペンギンにならなれるかなと。

——中矢さんと樋口さんとの出会いは?

宇佐美 何を始めるにしても自分一人ではできないけど、いい人が見つかったらできる、というのはずっと思っていました。会社に勤めていた時、「将来独立したらこの人と働いたら面白いだろう」っていうリストを作っていて(笑)。中矢さんは、その一人で、もともとはいくつか向こうの机で働いていた同僚です。樋口さんは、DIYリノベーションスクールの先生でした。

——リノベーションスクールに通われた?

宇佐美 僕の仕事は、ホテルを取得した後にセールスやマーケティングを見直して、同時に施設をどういう風に変えるかを考える立場。建物が時代の変化でどんどん陳腐化していくという課題や、カーペットがへたるといった経年劣化に対して、どのくらいのお金をかけたらどのくらいのリターンがあるのかを計算します。

僕は数字をメインに仕事をしますが、取得したホテルのリフォームを実際に見た時の変化がすごかったんですね。そこで働く人たちがみんなで参加して、コンセプトを作ってリノベーションしていくと、チームとしての一体感もすごく高まる。お客さまはこういうのが好きとか、子供が多いからビュッフェ台の高さをもうちょっと低くとか、すごく具体的な話が出て。でも僕は、いつもそれを見ているだけだったんです。そんな頃に樋口さんが主宰するDIYスクールの広告を見て、すぐに申し込みました。最初はいきなり解体でしたけど(笑)

樋口 これはスクールじゃない、ただの労働だって(笑)

写真=内山温那

宇佐美 朝10時から5時まで解体をやって、さすがにフラフラになりましたけど、面白かったですよ。1回、2回と回を重ねるごとにゆるいコミュニティもできて。

樋口  DIY を介して、仲間のようなコミュニティができるというのは確かにありますね。DIY をやる人って、30から50歳ぐらいまでの女の人が多いのですが、その歳から新しいコミュニティに参加するっていう機会もあまりない。そういう意味でも、すごくいいアイテムかもしれないって思ったなあ。

DIYスクールに参加。ご自身で体験することがお好きだそう。写真=本人提供

「古い建物を使いつづける」という感覚を大切にしたい

——飯田でも空き家のリノベーションをするんですか?

中矢 空き家のリノベーションで町全体を開発するとなると、ことが大きくなりすぎて進まなくなるので、まずはピンポイントでここの地域にしようっていうのを決めて、その中でホテルなり旅館なりを改装していければと考えています。古民家や空き家の利活用は、その次の段階になりますね。

中矢万紀子さん(写真左)写真=内山温那

樋口 ヨーロッパやアメリカでは、家を買って自分で改装し、買った値段より高く売るというのが、一般的なんです。それを評価する買い手が、マーケットにある。そういう考え方は日本にはないですよね。

宇佐美 DIYはそうしたマーケットのきっかけになるはず。時間はかかると思いますが、「古くても手を掛けた素敵なホテルや家がいっぱいある町」になったらいい。そうしたら町の魅力も上がっていきますよね。

ちょっと古い建物でも天井を剥がすと、なかなかしびれる美しい梁が出てきたりする。壊しちゃうのはもったいないって思います。昔はそういうものを上手にリサイクルする文化があったはずなのに、いつそれが途切れて、いつそれが僕らの記憶とか知識の中からなくなってしまったんだろうと、不思議に思うことが結構あって。

だからDIYは、いわばもともと僕らのDNAに刷り込まれているくらいの、建物に対する関する感覚だと思うんです。

樋口 昔は職業選択の自由がなかったので、大工さんの家はずっと大工さんで、その仕事を村人たちが手伝うわけです。今年はあいつの家を建てようといって、おなじ家をひたすらずっと建ててきたから、日本の原風景はすごくまとまりがあってキレイだった。母屋は大工の棟梁に立ててもらうけれど、牛小屋とか農機具小屋とかは自分たちで建てるとか。材料はどこかで壊したものを集めておいたり、自分の家を解体したものを取っておいて、それを利用するっていうことが当たり前に行われてきたのが、本当は日本の建築の中にあった。

写真=内山温那

——今は自分でやりたいと思ったとしても、なかなかできないですよね。

樋口:できないということから始まるでしょ?

——そうですね、できるものだと思ってないかもしれません。

樋口 リノベーションスクールなどに参加してもらうことで、できないと思っていたことができるんだという意識に変わっていけば、どんどん挑戦していけると思います。

飯田に関わる人を増やしたい

——「いいだエリアマネジメント」で実現したいことは?

宇佐美 「いいだエリアマネジメント」で行うのは観光宿泊業ですが、新しいものを作るのではなく、地域にもともとあるホテルや旅館を再生しながら地域に人を呼びたいと思っています。ただ宿泊施設を作っても、そこに来る理由がないとお客さんは来ませんから。

中矢 この町にある可能性や歴史あるもの、素材をつなげて、ストーリーを作ることで、来る目的を紡いでいきたいですね。

宇佐美 あとはまず、地域の人たちが望んでいることが何かを、もっと聞きたいと思っています。今、インバウンドでたくさんの観光客が来ていますが、一度にたくさん来すぎてしまって、地元住民の生活空間に入りこんで困っているという例もありますから。

ヨーロッパからの個人の観光客って、ゆっくり浸透して少しずつでも長く来てくれるお客さんなんです。最近だとSNSなんかで、モンサンミッシェルが広島の宮島に似ているとか、大阪の梅田スカイビルが凱旋門に似ているといって、そこに出かけていくんですよ。なので、天竜峡などでも、「ヨーロッパの風景に似ている」っていうアピールが可能かなと思います。

——i-Portの第3号認定となりましたね。

宇佐美 僕たちが飯田とどういう風に関わっていきたいかと言ったら、課題を解決していくということ。樋口さんは建築、中矢さんはホテルマーケティング、僕は金融の視点で解決ができる。まずはそこを正していくのが、やるべきことかなと思います。

でも、僕らだけでやるのは無理で。いろんな仲間がいて、知恵やノウハウもいろんなところから得ることができて、飯田とか田舎とか関係なく、いくらでもつながってどんどん解決できるっていう風になったら面白いだろうなって思います。そういう意味でi-Portの方々にもネットワークやマッチングをお願いできればいいなと。

i-Portの認定会議では、皆さんからいろいろ厳しい意見もいただいたんですが、名刺交換の時には、「実は紹介したい人がいるんだよ」って。応援してくださっている、あたたかさを感じました 。

新事業創出支援協議会「i-Port」認定会議の様子。写真=内山温那

——飯田も田舎も関係なくつながるというのは?

宇佐美 それは僕には強い思いがあって、リニアが通って最終的に飯田に定住してくれる人が増えるのがベストですけど、いきなりの移住は難しい。ならば、まずはたまに来るとか、インターネットでつながっているとか、最初はどういう形であれ地域に関わってくれる「関係人口」を増やすことが必要だと思うんです。i-Portも海外にだって進出すべきと言っているくらいで、飯田の問題解決といった時に地域の人たちだけでなく、都市部の人ともつながって情報やノウハウをもらうのはいいことですし、海外に投げかけてみてもいい。

僕は拠点が神戸ですが、みんなバラバラの地域にいても、飯田のような特定の地域をITやネットワークを使ってみんなで見ていくことができる。そうして、たくさんの人と知識やアイデアの共有ができたら面白いんじゃないかなと思っています。

 

株式会社いいだエリアマネジメント

ホテル、旅館等の経営と経営に関するコンサルティングの提供・企画、建物のリフォーム及びそれに関するコンサルタント業を通じて、地域観光マーケティングの普及やまちづくりを行う。