飯田市内で起業しようとする人や、新たな事業の実現を目指す事業者の優れたビジネスプランを飯田市と飯田商工会議所が支援し、夢の実現を応援する「飯田市ビジネスプランコンペティション」。11回目となる同コンペの表彰式が10月7日(月)、エス・バードにて開かれました。
令和6年度 飯田市起業家ビジネスプランコンペ 表彰式開催
今年度は「起業家部門」11件、「移住起業家部門」2件、「新事業チャレンジ部門」6件、計19件がエントリー。新規性、地域貢献性、実現可能性を基準に審査が行われました。
審査会による一次審査、二次審査を経て、起業家部門4件、移住起業家部門1件、新事業チャレンジ部門3件の入賞が決定!中でも、地域にニーズのある事業を受け継いで開業するという新たな形での事業継承を実現させた富永由帆さんのビジネスプラン「飯田市に音楽の新風をI.WINDS」が最優秀賞に輝きました。
この日、佐藤健市長から目録と盾が手渡され、後日、入賞者には奨励金として最大50万円、最優秀者には最大100万円が交付されます。
それぞれの事業内容、評価、入賞者のコメントは以下のとおりです。
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〈起業家部門〉入賞
爪切り処ひなめ 森本 智子さん
事業名「家族の足のかかりつけフットケアサロン こどもから高齢者まで生涯歩ける足づくり」
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足元に手が届かない、見づらいなど身体的な理由で足の爪切りができない方、タコ・ウオノメなどでお悩みの方、足の裏の角質を取りたい方などのケアを自宅サロンと訪問で提供している森本さん。
「社会的な課題に対応する意義のある事業であり、高齢者のサービスとしてもとても良い」「福祉・医療関係の事業所と連携していくことで事業のさらなる進展が見込める」と評価されました。
入賞者プレゼンテーションで森本さんは「足は『第二の心臓』と言われるほど大切な役割を担っており、トラブルがあることで歩行困難や全身の歪み、痛みにつながってしまうこともあります」と解説。「今後は足のケアに加え、健康教室や靴の計測相談などを開き、こどもから高齢の方まで皆さんがいつまでも自分の足で元気に歩き続けられるよう、足下からの健康をお手伝いさせていただきます。介護に携わる方、足のケアをしてみたいという方、ぜひお声がけください」と呼びかけてプレゼンを締め括りました。
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〈起業家部門〉入賞
rukous(ルコス)細谷 知世さん
事業名「飯田を元気に!心とカラダのメンテナンスは『rukous』へお任せください!」
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細谷さんが営むrukous(ルコス)では、30代、40代の女性を対象に(男性は完全紹介制)IHRAリメディアルセラピー、カウンセリング&アドバイス、腸美養セラピー、脱毛を提供。「一人ビジネスのサロン事業として現実的な事業計画になっている」「パーソナルジム等の地域内の事業者と連携することで幅広いサービスを提供している」点が評価されました。
「仕事や育児、介護、家事、誰かのために頑張っている方が自分のことを大切にできる時間を作ってあげたい」との思いからこの事業を立ち上げたという細谷さん。社会福祉士として働いていた経験を生かし、心と体、栄養面など全体から捉えたケアを行っています。「これからも飯田の方が元気に活動をし続け、飯田市がより魅力的な街になるように、技術の向上や他所との連携を図っていきます。もし周りに『最近、疲れてるんじゃない?』という方がいたら私のことを思い出して紹介していただけたらと思います!」と爽やかにPRしました。
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〈起業家部門〉入賞
甲斐 祐弥さん
事業名「サードプレイスのためのコーヒースタンド」
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飯田市八幡の商店街にある空き店舗をリノベートし“専門性のある都会的なコーヒー体験とコミュニケーションを大切にした居心地の良い空間”の提供を目指す甲斐さんの事業。「地域内初のコーヒースタンドであり、商店街への刺激ということからもプランとしての面白さが感じられる」点が評価されました。
事業名にもあるサードプレイスとは、家でも職場でもない第三の居場所のこと。もともと東京の一流ホテルで勤務をしていたという甲斐さんですが、心を壊してしまった経験があり、その際、あるコーヒースタンドの寄り添うサービスに命を救われたと話します。「救われた命を、私も誰かに寄り添うことで生かしたいという思いから起業を決意しました」と甲斐さん。「うれしい時も悲しい時も、頭の上にある空のように貴方に寄り添えられるカップを届けます」と、穏やかな笑顔で呼びかける姿が印象的でした。
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〈移住起業家部門〉入賞
中川 誠吾さん
事業名「フィンガーライム南信州」
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フィンガーライムという高級果実の栽培を軸に、地元農家が育てる野菜や果物の販路開拓支援も目指す中川さんの事業。「移住しての起業であり思いの深さと行動力を感じる」「非常に魅力のある食材であり、まだ一般的ではない果物にいち早く目をつけたこと、販路開拓という生産者が抱える課題の解決につながる取り組みに期待が持てる」と評価されました。
2年ほど前から飯田市への移住を考え、月に1度のペースで足を運んでいたという中川さん。地元農家と直接触れ合う中で「人員不足で販路開拓まで手を伸ばす余裕がない」現状や、その努力、苦労を価格に転嫁できていないという悩みを耳にしました。「フィンガーライムという発展途上の果物に出会い栽培、販売を想定する中で、『販路開拓』という部分で農家の方々と共通課題があることに気づきました。その部分を私が担うことで、飯田市の価値を外部へ発信し、地元農家さんの努力が報われる世界を作っていきたい」と、力強く語りました。
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〈新事業チャレンジ部門〉入賞
信州旨酒 加藤商店 加藤久幸さん
事業名「ヒルノミ…真逆軸は背徳感タップリの大人の嗜み。利益を生み出す広宣活動のススメ」
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飯田市上郷で地酒を専門とした酒店を営む加藤さんが新事業としてチャレンジするのは「ヒルノミ」を通じた広宣活動です。週末の昼間を中心に、市街地の飲食店を間借りする形でおすすめの日本酒を提供。通常、酒を飲む時間帯とは真逆の「真昼・屋外・休日」というシチュエーションで、その背景にある物語などを聞きながら酒を“嗜む”機会を提供しています。
一年ほど前から月に1度の実証実験を進めており「魅力的なコンテンツで市場性も見込める」「日本酒を軸にした人、飲食店の結びつきによるネットワークの広がりや観光業との連携による発展に期待感が感じられる」点が評価されました。「飲食店とタッグを組むことで、当店の販促活動と飲食店の告知をかけ算的に積み重ね、酒を通じて人が街に出る機会を作っていきたい」「このイベントを目当て来てくれたお客さんの中から、ゆくゆくはスタッフなどを雇い発展させていきたい」と展望を語りました。
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〈新事業チャレンジ部門〉入賞
株式会社 戸田屋
事業名「食物アレルギーの壁を越え!みんなの笑顔を咲かせる、お菓子革命」
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半生菓子を中心としたお菓子を製造し、全国各地に販売している戸田屋。新たに挑戦するのは食物アレルギーに対応したお菓子の開発です。
「地元で培った食材や技術を応用し、社会的な解決に向けた取り組みであり、その成果をビジネスに結びつけている」点や「地域内の企業等と連携した取り組みによる事業展開への期待感」が評価されました。
近年、各地で立て続けに起こった災害やその被災地にある取引先、販売先から話を聞く中で「お菓子の産業は笑顔の産業。栄養という観点からいけば食べなくても大丈夫なカテゴリですが、幸せを感じてもらえるポイントでお菓子は大きな役割を果たしている」と実感したという戸田屋の皆さん。そんな中、アレルギーが原因でお菓子を食べられない方が多くいることにジレンマを感じ、培ってきた技術を生かしたアレルギー対応のお菓子の開発を決意したといいます。「この場でスタートを切ることを宣言させていただいたうえで、販路の面などまたぜひお知恵をいただけたら」と今後への意欲を語りました。
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〈新事業チャレンジ部門〉入賞
よしみ助産院 村松 佳美さん
事業名「産後のデイサービスによる育児支援〜南信州マザー・サードプレイス〜」
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飯田市立石の住宅街の一画で助産院を営む村松さんの新たなチャレンジは産後の母子とその家族を対象としたデイサービス、孫相談会&勉強会、短期入院・入所などのサポート事業です。
「事業の方向性が明確。社会的な課題から新たなニーズを見出し、そこに無理なく移行していく点が理想的であり、地域貢献度の高い事業であること」が評価されました。
現在、よしみ助産院では、妊婦さんが産気づいて入院した折には「これから赤ちゃん生まれます!」と“こうのとり”の旗を飾り、男の子が生まれたらももたろう、女の子が生まれたらかぐやひめの旗を立てているといいます。
「それを見た近隣住民の方々が、おやつや夕飯の差し入れをしてくれるなど、地域の皆さんの応援をもらいながら頑張っています」と村松さん。今回のマザーサードプレイス、産後デイケアについても「地元のみなさんにご協力いただきながら、お母さんにとって自宅でも実家でもない第三の家としてくつろげるサービスを提供したい」と笑顔で語りました。
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〈起業家部門〉最優秀賞
富永 由帆さん
事業名「飯田市に音楽の新風をI.WINDS」
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今年度、最優秀賞に輝いた富永さんのプランは、時代の流れの中で地域から消えそうになっていた事業を引き継ぎ、開業するという新しい形の事業承継。前職である市内の老舗楽器店が、不景気のあおりを受けて管楽器の販売、修理・調整などの事業から撤退を宣言する中、同事業を受け継ぐ形で独立を果たしました。
これまでのつながりもあり、継続したフォロー体制はビジネスに結びつく可能性が高く「譲る側、譲られる側双方にメリットがある」点や「中古品販売時に1年間保証がつくなど大手メーカーとの差別化が図られており、リペアマンがいることでアフターケアが充実している」点などが高く評価されました。
富永さんが大切にしているコンセプトは「お客様第一」「豊富な経験とノウハウ」「独自のアイディア」の3つ。お客様が何を求めているのか、どう演奏したいのかをくみ取りフィードバックするほか、自身が演奏家として培ってきたノウハウや専属のリペアマンなど技術者の豊富な知識や経験を楽器や演奏技術に還元させています。また、楽器店では珍しいオリジナルのグッズも開発して販売。「飯田市の音楽活動や音楽文化の発展、活性化をささえていきたいと思っておりますのでこれからよろしくお願いします」と意欲的に語りました。
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久保田優典審査委員長からの講評
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入賞者のプレゼンテーションに先立ち、第一回から審査に携わってきた久保田委員長から、同コンペについての講評がありました。
同コンペの目的は、市内在住または市内に職場を持つ起業家のチャレンジを積極的に促すことにあります。応募プランには斬新な発想や第二創業など、ものづくり事業への応募も多いものの、近年は「スモールビジネス」「ソーシャルビジネス」などの形で地域課題への取り組みがなされているものが選ばれる傾向があるといいます。
二次審査では「ご本人からのプレゼンで、書類ではわからなかった人となりなどもわかりさらに議論が深まった」と話し「ここに立たれている入賞者の皆さんが真剣に訴えかけてくれた姿が印象的でした」と賞賛。一方で、応募プランの中には、アイディアだけが前面に出たようなテーマもあり「非常に残念だった」と話し、同コンペが地域おこしやボランティアを主軸とした活動を評価するものではなく、あくまでもビジネス視点の高い内容(売り上げや利益、投資の循環や妥当性など)が評価のポイントになっているという点を強調しました。
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佐藤健市長、飯田商工会議所の原勉会頭からあいさつ
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飯田市ビジネスプランコンペティション主催者としてあいさつをした佐藤市長は「審査員の皆さんや、起業家に寄り添い事業計画のアドバイスをしてくれた経営指導員の皆さんに心から感謝を申し上げます」と感謝の意を述べながら、受賞したプランのそれぞれの優れた点について講評。家族や自身の話を交えながら親しみを込めて語りかけ、最後に「今回の受賞を起点にそれぞれの事業が発展し、続いていくことを心から期待したいと思います」と受賞者全員にエールを贈りました。
また、飯田商工会議所の原勉会頭は「それぞれ難しいこともあったと思いますけれども、入賞した8名の皆さんの努力に敬意を評したい。先ほどの皆さんのプレゼンから、夢ではなく事業の実現に向けた強い気持ちや意欲を感じ、新たな挑戦に期待を持つことができました」と高く評価しました。その上で「ビジネスはこの地域にとどまるものではありません。皆さんのアイディアを軸にぜひ全国や世界に羽ばたいてほしい」とコメント。「今回、残念ながら入賞できなかった方たちも含めて、商工会青年部などに参加してもらい、新しい交流を持っていただければありがたい。そうした中で地域の経済とも連携を深めながら、イノベーションの創出と推進につながることを大いに期待してます」と熱い言葉が贈られました。
それぞれの夢の実現に向けてスタートを切った皆さん。今後の活躍が楽しみです。