林業を未来へつなぐための新たな挑戦

━━まずはお二人の出会いと「REFINE」を立ち上げたきっかけを教えてください。

木下英幸(以下、木下) もともと小木曽さんが、僕のブランド「ハナブサレザー」の愛用者だったんです。話をする中で「林業の未来をどうにかしたい」「ミズホ鋼機はチェンソー専門店ですが、僕は脱チェンソーをめざしています!」という発言が興味深くて。距離感がグッと縮まりました。

小木曽正如さん(以下、小木曽) 私は長年、農林業機械を販売してきて、良い道具が次々と開発されるのを間近に見てきました。でも、林業に携わる方の高齢化は年々進んでいます。使う人がいなくなればせっかくの道具も無駄になってしまうし、私たちの仕事も成り立ちません。目の前の利益だけでなく林業を未来へつなぐ取り組みについても考えなければいけないと感じていました。

木下 僕はもともと「地元の子どもたちが幸せになる未来を作ること」が、地元に企業がある意味だと考えていて。小木曽さんと語り合う中で、僕が考えている「子どもたちの居場所作り」や「不登校の子どもたちや障害を持った人、シングルマザーのために雇用を生み出したい」という話をスッと理解してくれたのが嬉しかった。I-Portの認定前から、REFINEの話は進んでいたよね。

小木曽 ブランドの立ち上げは2017年でしたから、I-Portの認定より少し前ですね。ブランドができたのは、どちらかの提案というよりは自然な流れでした。

 私の仕事はいわゆる卸売業なので、正直に言えばうちでしか買えない商品というものはありません。だからこそ、オリジナルの商品を発信したいという思いもありましたね。REFINEには「より良く」という意味がありますが、道具をよりカッコ良く、より大切に使ってほしいという思いを込めてこの名をつけました。

世界有数の農林業機械メーカー社長からも賞賛の声が

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ドイツの農林業機械メーカーSTIHL社のガーデンカッター「GTA 26」専用ホルダー。牛ヌメ革を使用した高級感のあるつくりでアクセントに鹿の革が使われている(写真/佐々木健太)

━━2020年に誕生したのが、このSTIHL社のバッテリーガーデンカッター専用ホルダーです。いま全国的にも注目を集めているそうですね。

小木曽 2020年7月16日、新製品としてガーデンカッター「GTA 26」が発売されたのに合わせて専用ホルダーを発売しました。かなり好調で、9月の段階で制作した50個は完売、現在も県内外から多くの問い合わせが来ています。

木下 「GTA 26」は庭木の剪定や農業、果樹、アウトドア、DIYにと広く使える一般ユーザー向けの道具。発売が決まったとき小木曽さんから「木下さん、GTA 26の発売と同時にホルダーを出しましょう!」と話をもらって。

小木曽 とてもいい商品だけに、ホルダーがないのは不便ですよね。海外ではこの製品がひと足早く発売されたのに、STIHL社からもまだ専用のホルダーは出ていないんです。

木下 せっかくなら世界初にしようってことで。うれしかったのは、STIHL社の日本代理店の社長さんがこの商品を褒めてくれたこと。本社から派遣されたドイツ人の社長さんだよね?

小木曽 そうなんです。うちの店でアップしたFacebookの記事を見てくれたようで、電話をくれて「すごくかっこいいです」と。木下さんのデザインの良さもあったと思いますが、嬉しかったですし、自信になりました。

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左がミズホ鋼機株式会社飯田営業所所長の小木曽正如さん、右が木下英幸さん(写真/佐々木健太)

━━「シングルマザーに雇用」を、とのお話でしたが、製造の現場では、すでに取り組みが始まっているのですか?

木下 はい。少しずつですが、シングルマザーの立場にある方に仕事を覚えていただいていたり、障害のある人たちに指導してくれる人を育成しているところです。ひとりで全部作れなくてもいい。例えば、穴を開けるところに印をつけるだけでもいいし、のりで貼るだけでもいい。その人ができる「仕事」が生まれればいいよね。

 あとは、不登校の子どもたちが手に職をつけて「仕事って楽しい」と感じてくれたらいいなとも思うし、シングルマザーには内職として、できたら外で働くのと同じくらいの給料を出してあげたい。家でお母さんがものづくりをする姿を見たら、子どもたちの人生にきっとプラスになることがあると思うから。

小木曽 2年半かかったけれどいい流れができたので、REFINEの知名度をさらに広げて、木下さんに安定した仕事を出して協力できればと思います。

━━流通の仕組みはどのような形ですか?

小木曽 ミズホ鋼機株式会社飯田営業所が総代理店という形で、木下さんから商品を仕入れて販売しています。また、この商品とストーリーを理解し、応援してくれる静岡や岐阜の営業所に商品を卸して販売してもらっていますね。まだ試験的な部分もあるので、バランスを考えながら方法を模索しています。

木下 ミズホ鋼機さんが林業に携わっていることで、有害鳥獣のへの理解もあったし、「山の恵みである革製品がいずれ山に還り循環する」という商品コンセプトにも思いが合致したところがよかった。さらに小木曽さんは、地域への恩返しということも深く考えていて、REFINEの売り上げの一部を森づくりと人づくりの支援を行う「長野県緑の基金」に募金している。これもひとつの循環だよね。

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木下英幸さん(写真/佐々木健太)

動くのは自分、支えてくれるのがI-Port。世界への進出を目指して

木下 それから僕らには夢があって。いま、この商品を世界へ売り出す方法を模索しているところ。STIHL社の商品は世界160カ国に流通しているけれど、そのうち日本のシェアは数パーセント。世界単位で考えたら、90パーセント以上の市場の可能性があることになる。

━━世界市場への進出ですね。

木下 有害鳥獣は地元にいて、猟師もいる、解体してくれるところも、革をなめしてくれるところもあって、商品を作る僕もいる。I-Portの支援を受けてブランドの立ち上げはできたけれど、じゃあ一体、どんな販路で売ればいいかというところだけが明確じゃなかった。でも今回はピーンと閃いて、I-Portを通じて紹介してもらったジェトロ(日本貿易振興機構)さんに連絡をして、世界に発信するための戦略について専門家の方と相談させてもらうことになりました。

━━貴重な一歩ですね。

木下 信頼している金融機関の担当者から「木下さん、I-Portの認定をもらったからといって受け身でいてはダメ。いただいたご縁を自分から積極的に活用しなければ」とアドバイスをもらっていたのも大きかったかな。動くのは自分で、支えてくれるのがI-Port。検索しても「GTA 26」そのものの画像は世界中でアップされているのに、ホルダーはまだない。チャンスだよね。

小木曽 このホルダーが画像でアップされていけば「これはなんだ」「日本の小さな企業が作っているらしいぞ」と話が広がるかもしれない。そうなれば本当に海外進出も夢ではないと思います。

木下 あと、ほかにも嬉しい話があるんだよね。

小木曽 実は国内の、とあるメーカーの担当者の方がREFINEに興味を持ってくれて、メーカーとして商品を販売してみたいという相談を受けたんです。

木下 メーカーが自社の商品として販売するとなれば、数が動くし、販路も一気に広がる。僕はどちらかといえばせっかちで「やってみよう!それから考えればなんとかなる!」って煽っちゃうタイプだけど、小木曽さんは正反対で石橋をしっかり叩いて渡るタイプ。義理も果たすしみんなに利益が出るようにきちんとやってくれる。だからありがたいよね。僕自身も、REFINEが一過性のものになるのはイヤだからゆっくりでも確実に進むのがいいと思ってる。

小木曽 もちろん数が増えれば安定して仕事ができるしとても良い話ですが、だからこそ慎重に進めなければいけないと考えています。販売エリアや、ブランドイメージなど細かい部分も含めて同時に検討しているところです。

テーブルに置いている様々なナイフ
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販売されているREFINEの商品。剪定バサミや鋸のケースなど8アイテムが揃う。(写真/佐々木健太)

━━REFINEの商品には、必ずどこかに有害鳥獣である鹿の皮が使われているんですよね。

木下 そう。ただ有害鳥獣はブランドの大切な柱だけど、一番目に来てはいけないとも考えていて。僕自身は熱い思いを持っているけれど、実際に買う人にとってそれはどうでもいい話。今回の商品がヒットした理由は、「商品のケースがない」という困りごとに対して問題解決をしたこと。これは、ものの売り方や今後の開発のヒントになった気がする。

小木曽 まず需要があって、そこに想いを加えて、というのが良かったのかもしれませんね。

木下 有害鳥獣のことは購入した人があとから知って、ファンづくりの要素の一つになってくれたらいい。使ってもらえれば絶対に自信はあるから。革の製品は自分だけの味わいも出るし、壊れても修理ができるからね。

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小木曽正如さん(写真/佐々木健太)

伝えたいのは「ものを大切にする気持ち」と「命」の尊さ

━━「林業をカッコよく」もテーマにしていますが、ターゲットは若い男性ですか?

小木曽 最初の入り口として林業の未来への危機感があって、カッコよくしたいという気持ちもあるのですが、ラインアップによってはユニセックスや、女性に特化した商品があってもいいと思っています。

木下 松川町の農業女子の皆さんも商品を見に来てくれたよね。

小木曽 もともとはガーデンカッター「GTA 26」の体験会に参加していただいた方たちですが、REFINEのホルダーを持って行ったらとても興味を持ってくれて、その日のうちに店にも足を運んでくれました。

木下 彼女たちが言うには「農業の道具は若い人向けのものがなくてテンションが上がらないから可愛いものを作って欲しい」と。農業に携わっている女性が、グッズでテンションを上げて、がんばって働けるならそれもいいなと思ったよね。

━━実際に動き出してから得た発見ですね。

小木曽 もちろん、オーダーメイドになると価格的に難しいので、量産できるものでリスクも考慮しながらベースになる商品を選んでいかなくてはと思います。でも、ニーズは無限ですよね。すでにこんなものを作って欲しいと依頼されている商品もありますし。

木下 忙しくて寝られなくなっちゃうな。うれしい悲鳴です。

━━では最後に「REFINE」を通じて叶えたいお二人の夢を教えてください。

小木曽 僕はずっと道具を売る仕事をしてきたので、REFINEの商品を通して道具に愛着を持って使っていただきたいですね。REFINEのケースを使うことで、自分の買った道具が特別なものに思えるかもしれない。壊れたら捨てるのではなく、修理をしながら一つのものを長く大切に使ってくれる人が増えたら嬉しいです。

木下 革製品もそうですが、すべてが「もの」になる前に、そこには命があって、色々な人の手を介して、ここに存在している。REFINEにはYouTubeチャンネルもありますが、そこでは商品が完成するまでの過程が見られるようになっています。作品の背景にある「命」を感じてもらいたいし、それがしっかり伝わるようなブランドにしていきたいですね。

テーブルを囲んでいる人
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木下英幸(きのした・ひでゆき)
飯田市生まれ。「ハナブサレザー」主宰として個性あふれる革製品を生み出し、全国にファンを持つ革職人。2019年有害鳥獣の命を生かすブランド「GAIJYU(凱獣)」を立ち上げたほか、2020年には子どもの健全育成を目指すNPO法人「はなぶさ学園」も開校するなど幅広く活動を行う。地域安全戦隊「ジングルライダー」のレッドとしても活躍中

小木曽正如(おぎそ・まさなお)
岐阜県生まれ。ミズホ鋼機株式会社飯田営業所所長。農林業機械販売店として地域ユーザーから厚い信頼を集めるとともに、その枠を越えた新たな試みにも積極的に取り組む。2017年には木下さんと共にオリジナルレザーブランド「REFINE」を創立。地域安全戦隊「ジングルライダー」のグリーンでもある

ミズホ鋼機株式会社 飯田営業所
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