「南信州コラボ」のアイテムを求めて、遠く埼玉からの来店も

――今日は、森下さんがマネージャーを務めるアパレルショップ「AKAISHI」にお邪魔しました。店内に並んでいるFUTURE FOXコラボ商品を拝見すると、Tシャツも複数デザインが揃っているし、ジャケットなどの展開もあるんですね。

森下隆幹さん(以下、森下):はい。基本アイテムといえばTシャツですが、ジャケット、ショートパンツなども展開しています。最近リリースした新作Tシャツは、もう完売してしまったので、いま店内には定番の人気商品が並んでいますね。

「FUTURE FOX」の商品が描かれた人気Tシャツ。イラストは南信州在住のクリエイターが手がけたのだとか。「ここに描かれているギアを持っている人は嬉しいし、着たくなりますよね。親しみやすいイラストなので、純粋にこれがかわいいと選ばれることも多いです」(森下さん)
前開きのジャケットは難燃・撥水に優れた素材「炎神(えんじん)」を使用。シンプルなデザインでタウンユースからアウトドアまで幅広く対応している

――ロゴが目を引くデザインだったり、機能性の高い素材が使われていたりと、「これを選ぶ理由」が散りばめられたラインナップですね。

森下:まさに、開発で意識しているのはその点です。

同じアパレル商品を売るのでも、店頭販売が中心の場合とEC中心の場合では、力をいれるポイントが異なってくるということを、FUTURE FOXさんとのコラボで学ばせてもらったんです。

――それは、具体的にどのような?

森下:僕たちのように、店頭での販売経験が長い人間がアパレルを開発しようとすると、つい店での売れ筋を意識して「ロゴは小さく、デザインはできるだけシンプルに」と大胆さを避ける傾向に走ってしまいがちです。けれど、ECで目を引くものだったり、そもそもFUTURE FOXのユーザーがほしいものは、じつはまったく違っていて。

ロゴはしっかり入っていないとスマホの画面ではわからないし、ありきたりのデザインならいくらでも検索すれば出てきてしまう。だからロゴは、最初小さかったものが新しくつくるほどにどんどん大きくなっていきました。

ジーンズショップ「AKAISHI」マネージャー 森下隆幹さん

――なるほど、このTシャツの存在そのものがブランドを伝えることにつながることを意義としているんですね。

森下:はい。以前、熱心な FUTURE FOXのファンの方が埼玉から来てくださったこともありました。あれは驚いたし、嬉しかったですね。そういう、ブランドのファンの想いにも応えられるように、ありきたりなものにせず、FUTURE FOXのブランドに合うようなデザインや機能を意識しています。

吉地成瑠さん(以下、吉地):あと、せっかく南信州の企業同士のコラボだから、服づくりもメイドインジャパン、メイドイン南信州でできるだけいきたいですね、という話はしましたよね。

森下:そうそう。今はできなくなってしまったのですが、最初はTシャツそのものの制作も南信州のメーカーさんにお願いしていました。今もデザインやプリントなど、頼める部分はできるだけ地域の方にお願いして、今も「南信州発アパレル」をめざしています。

――ビジネスに関する記事ですので突っ込んでお聞きしますが、このコラボ事業については共同で出資されているのですか?

吉地:いえ、AKAISHIの開発商品として実施していただいています。うちにとっては、アイテムも増えるし、私たちのロゴがついた商品がAKAISHIさんからも売れていけば、広告宣伝と同じ効果だと考えているんです。

森下:もちろん、開発にあたっては途中段階でチェックしてもらっていますが、何を見せても「いいですね」って、この笑顔で返ってくるんですよ。

吉地:そうですね(笑)。実際、いいものを作ってくださるので、もうお任せで。サイトでも売れ行きが良く、ありがたいです。

狙ったのは、売れ筋ギアの“付属品”。商品もサイト構築も、できることをやり尽くして

――では、FUTURE FOXの事業の成り立ちについて、吉地さんから教えていただけますか。

吉地:よく、僕がゼロから会社を立ち上げたと思われるのですが、もともとは父が先に脱サラをして、ネットでさまざまな商品を販売するビジネスを個人事業主として行っていたんです。そこに、愛知の大学を卒業した僕が「これから儲かっていくから」と、親父にうまいことを言われて、巻き込まれて(笑)。

2017年から父の会社で働き始め、事業を行うなかでアウトドアブランドを立ち上げることになっていきました。


FUTURE FOX代表 吉地成瑠さん

――当時はどのようなものを扱っていたんですか?

吉地:本当にこだわりなく、文房具でも電子機器でも、売れそうなものを仕入れて売る、というスタイルでした。2017年って、つい最近のことのように思いますが、インターネット事情でいうとまだまだ草創期。オンラインで買い物をする人も、物を売る人もそれほどいない時でした。

そんななか、弊社の最初のヒット商品となるのが、いわゆる「ワイヤレスイヤホン」です。

これで大当たりして会社の規模が一気に大きくなりましたが、同時に「これはずっと続くものではないな」ということも、薄々感じながらの事業ではあって。実際、売れているからとイヤホンを大量に仕入れたはいいけれど、いざサイトに載せたら思ったほどの速さで売れていかない、というピンチも経験しました。

どうしたらもっと成長していける会社になるのか、次の手を模索しながら経営コンサルを受けたり、都内で開催されていたEC※の学習会に通ったりしているなかで、2019年ごろから「これからはブランド力が大切、指名買いの時代になる」ということを教えていただいて。じゃあ、自分たちでなにか、ブランドを立ち上げようと考えるなかで、狙いをアウトドアに定めました。

EC:Eコマース。インターネット上での電子商取引のこと

――なるほど、もともとアウトドアブランドに取り組みたくて起業したわけではなく、ECビジネスの次なる一手としてのブランドづくり、そのジャンルとしてアウトドアを選んだと。

吉地:はい。ただもちろん、アウトドアにしたのは自分自身アウトドア好きだったから、というのはあります。子どものころから家族で週末キャンプででかけたり、この地域柄もありアウトドアは身近な存在でしたから。

極めるほど好きだったかといわれると、そうではない。けれど、のめり込みすぎていないからこそ、「今市場が欲しているものはどういうものか、なにを提供したら喜んでもらえるか」ということを、楽しみながらも冷静に考えられたと思っています。

――FUTURE FOXとして、どのようなブランドをめざしたのでしょう。

吉地:これは、イヤホンを売りまくっているなかで感じたことなのですが、似たり寄ったりのものを販売しても売れないんですね。とはいえ、今あるもので新たな発想をといっても、そう思いつくものじゃない。じゃあどこを狙おうかと考えたときに思いついたのが、「売れ筋のギアの付属品」の開発でした。

――うわあ、それは面白い。最初はどのような商品でしたか。

吉地:最初に開発したのは、IWATANIさんの「ジュニアコンパクトバーナー」という超ヒット商品の、付属品です。これをバーナーにかぶせて着火するだけで、火を眺めながら野外であたたかくすごせるヒーターになりますよ、というアイテムです。

――たしかに、ありそうでないような・・・・

吉地:じつは、あとからよく調べたらあったんです。その当時はそこまできちんとマーケティングもできていなかったので、気づかなかったんですが。ただ、僕たちは使い勝手のよいものにどんどん改良していった。売れたら口コミを徹底的に読み込んで、採用できる改善点はどんどん取り入れていって、リニューアルさせて。加えて、手に届きやすい価格帯にもこだわりました。

デザインのコンセプトは「無骨さ」。いまのうちの顧客層は30~60代の男性が8割なんですが、そういう中上級の男性キャンパーに刺さるような、ちょっとハードで手応えのあるデザインを意識しています。この部分は、ちょうど父がターゲットに近い存在でもあり、センスがあるので、父に任せてやってもらっています。

そうした改良の積み重ねと価格努力で、誰もが満足する状態に磨き上げていったからこそ、商品が選ばれるようになり、ブランドへの信頼も徐々に得られるようになってきたのだと思います。


FUTURE FOXの人気商品のひとつ、ヒーターアタッチメント。市販のガスコンロに装着すると、遠赤外線が放射され暖房器具になる。
https://FUTURE FOX-online.com/products/FUTURE FOX-heater-2022

コラボをきっかけに広がった新しい顧客との出会い

――ではいよいよ、森下さんと吉地さんの出会いですが、いつ、どのように?

森下:シンプルに、うちに服を買いに来てくれていたお客さんだったんですよ。まだ学生のころから、ちょくちょく来てくれていたよね。

吉地:ですね、なんかAKAISHIさんって、つい立ち寄りたくなっちゃう場所なんです。服を買うだけなら究極5分もあれば終わるのに、気づいたら1時間とか、話していたこともあったり。

森下:当時、僕もまだ店頭に立っていて、共通の趣味であるサーフィンの話題なんかを話すようになって。その頃から、僕からしたら「ちょっとこの子はすごいな」というのがビシビシ伝わってきていたので、つい顔を見ると話しかけていたんですよ。一人で服を選びたいときもあったかもしれないけど(笑)。

そんなふうにお付き合いをさせてもらっていて、「大学卒業して父の仕事を手伝っています」って聞いていたのに、あれよあれよいつのまにか、こんなブランドをつくりあげていて。

――吉地さんにとっては、AKAISHIはどういう存在でしたか?

吉地:愛知の大学を卒業して、南信州に帰ってきた理由にもつながるんですが、「人」がいいんですよね。それこそ洋服はいま、オンラインでも買えるけれど、森下さんや店長さんと話すのも楽しくて立ち寄ったり。そのうち、森下さんはECの担当になったとお聞きしたので、役に立ったかはわからないですけど、僕も知っていることを伝えさせてもらったりしていました。

森下:でも、教えてもらうことのスケールがどんどん大きくなって、桁外れになっていくんですよね。その吸収力と実行力たるや、すごいですよ。僕も最初は片手間のようなかたちでEC担当になったんですが、レジ横にパソコンを置いてお客さまがいない間に、なんていう覚悟じゃ何にもならないということがわかってきたので、専門の担当にしてもらいました。

――コラボ企画については、どのように?

森下:それは僕から、お願いして実現したんです。店頭でもECでも、他で手に入らないオリジナル商品があったら強いけれど、AKAISHIのロゴを入れたものを作ったところで、波及効果は狙えません。その点、FUTURE FOXにはすでにSNSでもファンがいることわかっていたので。

吉地:じつは、僕たちも一度独自でTシャツをつくったことはあるんですが、やっぱり慣れないことは大変なんですよね。サイズもあるし、カラーもある。売れるけれど、継続するのは手間なのでこれはあきらめようと判断していたところでもあったので、こちらこそお願いします、という感じでした。

――完成後は、反響や展開はいかがですか。

森下:店頭でもECでも売れ行き好調ですし、先日は関西最大のアウトドアイベントにもFUTURE FOXチームとして連れていってもらって。お店だけでは感じられない、幅広いお客さまの声に触れることができて、大きな学びを得ています。

吉地:2日間で4万人くらい来場だったみたいですね。僕も、あの規模のイベントに実際に行けたのは今回がはじめてだったので、熱量すごかったですよね。

森下:みんなの「いいものを見つけて買おう」っていう気持ちがね。

吉地:直接声をかけていただくことは僕たちにも勉強になります。出店にはお金もかかりますから頻繁にはできないけれど、大きなイベントも今後は定期的には参加していきたいなって思いましたね。


関西最大級のアウトドアイベント「アウトドアパーク2024」出店時のようす

顧客も、働く人も大切。あたたかな南信州の風土とともに

――最後に、南信州でのビジネスの魅力や、継続・発展のために意識しているポイントなどあれば、教えてください。

森下:先ほども話に出たとおり、ただでさえ安価な服が出回る時代、この地域でアパレルを続けていくことは容易なことではありません。ただ、ありがたいことにさきほど吉地くんからも「人がいい」って言っていただきましたけれど、店舗での販売は「人の力」を大切にしたいと思っています。新しいメンバーが入ったときにも、「ノルマはないけど、自分の担当だと思えるようなお客さまをつくってください」って話しています。

あとは、吉地くんまではできないけれど、できることには柔軟に挑戦してみる。そういうことを続けていないと、ただお店で「いらっしゃいませ」と待っているだけでは立ちいかないと日々考えています。


「AKAISHI」店内。レディース・メンズ服からギフトにも役立つ雑貨類まで幅広い品揃えも魅力

――吉地さんは、いかがでしょう。

吉地:じつはコロナ禍で盛り上がったキャンプブームは、いま落ち着きつつあると言われています。みなさんひととおり道具も揃えたので、正直キャンプ業界は、全体的にキツい時代に入っていると思います。ただ、うちの場合は店舗を持たないので売りきりができるし、地方にあるぶん、在庫を保管する倉庫の土地代なども安くすむ。そういう意味でも、地方でのネットビジネスで良かったと思います。

――それこそネットビジネスの起業家というと、ひと昔前なら最終的には都会のマンションで暮らして、というのがひとつの成功のかたちのようなイメージもありましたが……。

吉地:いやー、僕はそういうビジョンはまったくないですね。家族といっしょに、生まれ育った地元で仕事ができていて、若い子たちも入ってきてくれてという今の環境が、自分にとってはすごく理想的です。一時、大阪に暮らしていたときもあったんですが、なんとなく人との距離感を感じてしまって。都会に住み続ける選択肢はないなと感じた時期でした。

今、会社はメンバーが12人に増えて、40代の中国人スタッフ以外はほぼ、僕がこの仕事を始めた頃と同じ20代です。いつまでいっしょに働いてくれるかわからないけれど、もし続けてくれたらここから、長いじゃないですか。だから30年、40年、スタッフを守っていけるような持続可能な会社に育てていきたい。以前はそんなこと考えたこともなかったのに、そんなことをすごく、考えているんです。

この先も長く続くためのリスクヘッジとして、また別のブランドを他ジャンルで展開していけないか、ということも構想し始めています。

――なんと! その計画、森下さんはお聞きになっています?

森下:はい、チラっとは……。

吉地:もちろん、FUTURE FOXがここまで来られたのは、なんでも販売していた事業をある時点から一本に絞り込んで突き進んだから、という側面は大きいと思います。でも、ある程度の目標を達成してきたいま、現状維持は衰退の始まりになってしまうので、何かに常に、挑戦し続けていたいです。

――これからの展開が楽しみです。ありがとうございました。

ジーンズショップAKAISHI 

1974年創業。「着る喜びを、信頼できる品質を、長く愛用できる付加価値を」提供するアパレルショップとして、若者から大人まで幅広い世代に愛されている。飯田市に本店を構え、伊那市にも支店を展開。近年はECサイトにも注力している。

FUTURE FOX 

2020年にスタートした、南信州発のアウトドアブランド。「世の中に出回っていないキャンプ用品を提供する」をコンセプトに開発した、無骨なデザインの商品群が30代~60代のキャンプ中上級者から厚い支持を得ている。

https://FUTURE FOX-online.com/

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