開かれたコミュニティの力で、地域の未来を描いていく

━━今回はスナバにはじめて来たメンバーがほとんどです。高い天井に、センスを感じる家具。オープンキッチンもあり、通いたくなる素敵な空間ですね。

三枝大祐さん(以下、三枝) ありがとうございます。「通いたくなる」って、大事ですよね。ここにはバチバチの起業家から、動画作成やライティングやディレクションを生業とするクリエイター、新規事業を企画推進し新たな収益の柱とする地元企業の3代目など、本当にいろんな人が集まっています。後でも話題に出ると思いますが、そんな「あらゆる人が集まって、刺激やエネルギー、また事業に関するナレッジやリソースの交換が起きるコミュニティにする」というのは、スタート当時から今も大切にしているポイントです。

一般財団法人塩尻市振興公社シニアマネージャー/塩尻市役所 三枝大祐さん

━━この場所がどのようにできていったのか、成り立ちついて、教えていただけますでしょうか。

三枝 どこから話そうかな···まず「スナバ」は3階建ての施設で、2階3階は貸しオフィスです。この建物の1階部分がコワーキングだったりイベントができるスペースとなっていますが、一番最初は全館貸しオフィスに、という計画でした。

なぜなら、そもそもこの施設を作るきっかけは、隣接する「塩尻インキュベーションプラザ」の貸しオフィス事業が手狭になった、ということだったので。
次なる貸しオフィスをつくろうとの案が浮上したそうです。2016年ごろのことですね。

私自身は2017年4月に移住して塩尻市職員となり、スナバが着工しはじめた段階で声がかかったので、コンセプトづくりからプロジェクトに参画しました。

━━最初のきっかけは、むしろ貸しオフィスのほうだったんですね。

三枝 そうなんです。ただ、描く事業計画として「全館貸しオフィス」だけでは目指したい地域へのインパクトとしてちょっと弱いのでは、という見方があった。もっと、この地域に必要な機能はと考えたとき、ちょうど当時塩尻市では「MICHIKARA(ミチカラ)」という、市の課題に民間企業の知恵を入れて、解決策を考える、オープンイノベーションを体現したプログラムが実施されていたんです。

ならばここでは、「MICHIKARA」で見えてきたオープンイノベーションをもっとさまざまな人に開き、知恵を寄せ集めてることで、地域課題を解決していくような動きが常時起こっているような町をつくっていけるのでは……?と、方向性ができてきました。

━━聞いているだけで、ワクワクするような展開ですね……! さまざまお聞きしたいですが、まずは現在、ここでどのようなサービスが提供されているかを教えてください。

三枝 貸しオフィスのほかは、

①コワーキング機能:共に考え、共に働き、共に創る仲間と出会えるコミュニティやスペースを提供

②アクセラレーター機能:持続可能な事業創りに必要なマインドセットや思考フレームを提供し、事業を加速するためのプログラムを運営

③ラボ機能:シビック・イノベーションを探究し、ムーブメントとして加速していくためのさまざまなカンファレンスやイベントなどの取り組みを実施

という3本軸で運営されています。

アクセラレータープログラムの参加以外は、いずれのサービスの利用もスナバのメンバー(会員)になってもらうのが前提、というのも特徴的かもしれません。

三枝さんを囲む取材メンバーはI-Port.biz編集チームのほか、エス·バードを運営する南信州飯田産業振興センター職員も

自由に行動し、失敗も受容できる、しがらみのない「出島」を前提に

━━たしかに、人口がそう多くない地方のコワーキングスペースでは、ついドロップイン枠も設けたくなってしまうところ、ここは月額の利用料を支払い会員となったメンバーのみの利用なんですね。

三枝 ですね。たんに利用者を増やしたかったのではなく、スナバの目指す未来や理念に共感し、自分もいっしょにその未来をめざしたいと思ってもらえるような「コミュニティ」をつくるには、継続的な関係性が必要と考えました。あとはそもそも、スナバの提供価値を「場所」ではなく「事業が一歩でも前に進む」と定めている以上、それを実現するためには伴走的な支援が不可欠で。「伴走的な支援」のためには、継続的な関係性を作ることが欠かせないからこそ、この仕組みになっているんです。

スナバ内にある掲示スペースには、メンバー紹介やイベント告知などが所狭しと貼られている

━━サービスの設計をするにあたり、参考にした事例などはあったのでしょうか。

三枝 「生きたいまちを共に創る」というコンセプトの最後の詰めと、最初の2年間の伴走を、東京·目黒区でイノベーション拠点を2012年から運営している「Impact HUB Tokyo」にお願いして入ってもらいました。彼らの事業自体がロンドン発祥の、現在世界約100ケ所以上で展開している起業家ネットワークのなかにあり、イノベーションの場づくりの実践者でもある代表·槌屋詩野さんをはじめとするみなさんの関わりによって、コンセプトの解像度が上がり、準備も一気に加速していきましたね。

━━具体的に、どんなことが起きたのでしょう。

三枝 まず、地域内のイノベーターと言われるような方や中間支援組織などのキーパーソン、また地域外から塩尻に関わってくださる方に、2時間ずつぐらいインタビューを実施しました。これにより、まずは塩尻のなかで事業をつくることへの期待値や課題感を洗い出してくれたんです。

このインタビュー結果をもとに「コミュニティ·エコシステム(生態系)」、すなわち地域を動かすコミュニティにはどのような要素がありバランスなのか、の分析をしました。

そして、「地域課題をビジネスで解決する担い手を誰に設定するのか」「その人たちは、どのような課題を抱えているのか」「ここで、どのような価値を提供すればその課題に寄り添えるのか」ということを、一つひとつ構造的に設計していった。そのことがコンセプトをつくるうえで、解像度が高まった転機となったんです。

━━成功の先進事例をもつImpact HUB Tokyoのみなさんにとっても、大切なのは地域に暮らす具体的な人を知り、状況を知ることだった。それをベースにしたコンセプトの組み立てが、のちに地域内外に求められる場づくりにつながっていったんですね。

イノベーターの誕生は、多様な人々が集う「コミュニティ·エコシステム」のなかから

━━具体的にどのような「エコシステム」が見え、それらにどのようにアプローチを試みたのでしょう。

三枝 「シビック·イノベーション拠点」という場のエコシステムを循環させる人物像を分類したところ、おおよそ4つに分かれることが見えてきました。

①すでにイノベーターとしてさまざまなプロジェクトを起こしている人
②悩みを抱える事業者など、課題の当事者である人
③イノベーターにスキルを提供する人
④①や③のような人たちになって、地域に貢献したいと願う人

この4タイプを見ると、①がターゲットのように感じてしまいがちですが、じつはすでに活躍しているイノベーターのなかにはそんなに困りごとはないんですよね。塩尻という街は資源が豊富なところでないながらも、おそらく彼らは自分たちの力で集めてやってきているだろうし、これからなにかをはじめるときにも彼らなりに切り開いていける。だからこそ、すでにイノベーターとして活躍しているわけで。

そこで、④にターゲットを定めつつ、4者が混じり合うコミュニティを作り始めようと考えました。」

今はまだ行動できていないけれど、何かをしてみたい、けれど自信がない。どうしたら良いのかも、わからない。そんな彼らは、想いがありながらも地域の中で孤独にさいなまれているかもしれない。相談できるところがないし、なにか行動して失敗し、失敗した時に、誰かに何かを言われるのが怖いから踏み出せない、など不安を抱えているかもしれない。

そうした人たちの課題に応えるプログラムや、なによりもやりたいことを口にすることができて、安心して失敗ができるようなコミュニティの価値を提供することが、我々がつくりたい場づくりにつながると結論づけられました。

━━すでに活躍するイノベーターではなく、イノベーターとして飛躍したい人をターゲットの中心に設定し、メンバー同士が関わりの中でともにエンパワメントしていける場に──。まさに現状そのようになっていると見受けられます。

一方で、他の地域を見てみると、「未来のイノベーターを発掘、あるいは悩んでいる人の助けとなる情報提供をしたいけれど、どこにそんな人がいるの?」と、情報伝達や参加者集めの悩みは尽きないのではないかと感じます。スナバではオープン当初、どのように未来のメンバーたちに出会っていったのか教えてください。 ~後編に続く


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